十三話 奥へと案内

 仕事を受け付けるカウンターには複数の窓口があり、さすがは王都のギルドといった規模だった。そしてカラスマたちが話していた職員のちょうど後ろには扉があり、そこから建物の奥へと繋がっていた。

 突然現れた女が出てきたのも、そしてカラスマとミッカを連れて入ったのも、またその扉だった。

 

 「ギルド長が君たちと話してみたいと仰せでね。お疲れのところ悪いが、少しだけ老人の茶飲み話に付き合ってくれ」

 「うん? ……うん、だいじょぶ」

 

 少しだけ敬語を使うか悩むような素振りをみせつつも、結局はあっけらかんと親しげに返したミッカだったが、一方でカラスマは黙ってついていきつつ考え事をしていた。

 

 「(老人……そのギルド長のことですかね? 我々に興味を持ったとのことですが、少し早く仕事をこなしてきたというだけで? それだと妙ですから、受注してここを離れた後で何かの情報を掴んだとか?)」

 

 色々と思うところはあったが、ここまで来て引き返すような理由になりえるようなことなどなく、結局はとある部屋につくまで素直についていったのだった。

 途中で二階への階段はあったし、外観からも二階建てということはわかっていたが、ギルド長の部屋は一階にあるようだ。あるいは、一階にあるのは応接室だけなのかもしれないが。

 

 「来てくれてありがとうね、お前さんら」

 

 果たして、応接室という方の予想が正解だった。案内された部屋には仕事のための机や資料棚のようなものはなく、向かい合って三脚ずつ計六脚が設置されたしっかりとした造りの椅子と、その間にはこちらもやたらとしっかりした感じのローテーブル。質実剛健なデザインの家具ばかりなのは冒険者の気質なのだろうかと、カラスマはふと考える。

 

 「さあどうぞ、二人とも座ってくれ」

 「あ、オカマイナク」

 「失礼します」

 

 ここまで連れてきてくれた女が奥側、初めから座っていた老人の隣に腰掛けながら勧めてきたので、緊張しているのかぎこちないミッカとやたら落ち着いた様子のカラスマは手前側に腰掛ける。

 おそらくはギルド長なのだと思われる老人の前にカラスマ、連れてきてくれた女の前にミッカという並びとなっていた。

 

 「儂はオルド産の老茶が好きでのう……」

 「私は若茶の方が好みですね!」

 

 誰が用意したものか、ローテーブルの上には既に四つのカップに入ったお茶が湯気を立てていた。カラスマとミッカの感覚からするとそれはティーカップと呼ぶ形状だったが、中身は緑茶と紅茶が二つずつ用意されているようだった。

 老人と女が飲みながら言った言葉から判断するに、老茶が紅茶、若茶が緑茶ということらしい。

 そして特に譲り合うようなこともなく自然とミッカが老茶、カラスマが若茶にそれぞれ口を付けたところで、女の方が驚いたように目を開いてからカップを置いた。

 

 「名乗りもせずに失礼した。私はオー・レアン・ロウ、このギルドで活動する冒険者だっ!」

 「ほっほっほう、儂はジスワット・バシリットという名のジジイで、このギルドの長じゃよ」

 

 ようやく自己紹介を受けたことで、突然始まった冒険者ギルドでの会合は、和やかに進んでいくのだった。

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