八話 魔物討伐

 「さて、どうしたものですかねぇ」

 

 町中に出てみたものの、当てのないカラスマは途方にくれていた。

 

 「うける。切り替え早すぎ。……てか、けがはだいじょぶそ?」

 

 心配するミッカに「ええ、問題ありません」と返すカラスマだったが、確かにいつの間にか足は引きずらなくなっていた。

 ジャスティアなるこの世界の神からギフトを与えられた使徒たちほどではなくとも、カラスマにも常人を越えた身体能力というのは備わっているのかもしれなかった。実際に、この回復力は明らかにただのおじさんのそれではない。

 

 「(そういえばジャシーンとかいう怪しい存在がタレントなるものを与えてくれるとか言っていました)」

 

 ここへ召喚された直後は、そうした記憶すら思い出せなくなっていた。しかし時間とともに徐々に思い出していったように、与えられた能力というのも馴染むのに時間が必要なのかもしれない。カラスマはそんな風に推測していた。

 さらにいえば、段々とタレントなるものについても、何が与えられたのかがはっきりとしてきたようにも思えていた。アナライズボードには認識されず、自分でもぼんやりとしか自覚できなかった不定形の力が、自分の腹の中で形を成しつつあるようにカラスマは感じている。

 

 「なんかね、冒険者?とかいうのがいいらしいよ。今のあたしなら役に立てそうだしね」

 「それがよさそうですねぇ。何のコネも実績もなく、商売を始めたり職人に弟子入りしたりはできないでしょうから」

 

 いつの間にかそこらの通行人に話を聞いていたらしいミッカの社交性に驚くよりも、カラスマはあまたのウェブ小説の主人公に共感していた。コネもなにもない異世界なるものに放り出されたら、何でも屋のギルドに飛び込みで仕事をもらいにいくしかないだろうなと。

 

 

 

 剣と地図が描かれた看板のある建物に向かったカラスマとミッカは、特に難しい手続きもなく仕事を請け負っていた。受付では名前を名簿に登録こそされたものの、いわゆる冒険者登録証のようなものはなく、仕事を請け負った確認として小さなくすんだコインを首飾りにしたものを持たされたくらいだった。様々な情報を表示する不思議なカードやランクごとに色が違う謎金属のタグのようなものを期待していたカラスマはひそかにがっかりしたが、簡単に登録できるのならこんなものだろう。そして冒険者ギルドが手軽な仕事を簡単に受けられる場でなかったのなら、むしろ困っていたと現実的に考えて飲み込んでいた。

 

 「うわぁ……大変そうかも?」

 

 暗い地下に踏み込んだばかりのところで、ミッカは思わず口にする。

 二人が訪れているのは地下水道であり、ソノワ王国の王都城下町であるここフルシュには、こうした場所が多く存在しているということだった。便利な生活を支える地下水道であるが、人気がなく暗くそして湿気の多いこうした場所は魔物が発生しやすい環境になっているため、そうした魔物を適度に狩るのが受けた仕事だった。

 魔物というのが何かということもカラスマは聞こうとしたのだが、それはあまりにも常識であったのか、冒険者ギルドの受付でも「王都地下には強い魔物なんていないので大丈夫です」と言われただけだった。難癖をつけて報奨金を吊り上げる交渉を仕掛けようとしていると勘違いされたのかもしれないと、カラスマは思ったが確認する術などない。

 

 「あの……私だけで大丈夫だと思うので、ミッカさんはここで待っていていただいても……」

 

 この辺りは下水ではないらしく、じめじめしているだけで意外ときれいな地下通路といった雰囲気だったが、それでも若い女性を連れまわすに適した場所ではないだろうとカラスマは気を回す。

 

 「邪魔……かな?」

 「い、いえいえ! そんなことは決して!」

 

 しかし侮るなと怒るでもなければ、能天気に張り切るでもなく、不安そうに上目遣いなどされてしまえば一介のおじさんに過ぎないカラスマに断る話術などない。

 ということで、わけもわからず異世界に来てしまったカラスマは、状況の把握もそこそこに、超常的な怪力を誇る女子学生と二人で地下水路を探索することとなったのだった。

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