六話 怪力少女の怒り

 「あんたら……何をしてんの?」

 

 テツがカラスマを蹴りまわしていた訓練場に、かわいらしい声が響いた。呟くような言い方であったのに広いその場で端まで届いたその声は、発した人間の怒りを感じさせるに十分な迫力だった。

 

 「……なんだ?」

 

 カラスマへの攻撃の手を――いや、足を――止めたテツが不思議そうな表情を浮かべる。あるいは不満か。ここまでギフトの影響で高まった身体能力のみでいたぶっていたところを、ようやく本命のギフトそのものを使ってみようと思ったところだったからだ。

 

 「なんだはこっちのセリフじゃない?」

 

 再び低く抑えた声で威嚇するように呟きつつ、カラスマの元まで駆け寄ってきたのは訓練着を着たミッカだった。少し遅れて現れたアツコは世間話でもするようにショウから事情を聞こうとし、シラギクは黙って成り行きを見ている。いずれにしても、訓練場の中まで踏み込んできたのはミッカだけだったということだ。

 

 「どけ」

 「あたしがあんたなんかの命令を聞く理由って、ある?」

 

 それを確認したテツが命令するような形で言い放ったが、大柄な彼から見下ろされてもミッカはひかなかった。背にかばったカラスマを守るつもりであることは間違いがない。

 

 「ふひひ、そいつはハズレだったんだ、使いつぶしてもいいんだとよ」

 

 サクが下卑た笑いを抑えようともせずに告げる。「だとよ」と誰かからの言葉であったと示唆する言い様に、ミッカの眉間にさらなるしわが寄る。

 

 「あ、うん、そうだよ……、かばう価値っていうか……ほら、ね? 僕らみたいなギフトもさ……」

 

 さらにキョウジが補足説明だという風に言葉を重ねる。理解していて当然の常識を馬鹿なあんたに教えてやろうとでもいうような表情を、その一見気弱そうに話す相手が浮かべていることにミッカは恐怖すら覚えた。

 

 「あの……大丈夫、ですから」

 

 そしてとどめとなるような言葉を吐いたのはかばわれた当人――カラスマだった。

 しかし、ミッカに下がれという内容は同じでも、意図の違う言葉で逆に彼女の心には火が付いた。

 瞬間、城内にあって壁に囲われた訓練場に風が吹く。

 

 「ふざけんなっ!」

 

 周囲を圧するような怒声に、吹き荒れる風、……ただ怒りを爆発させたというそれだけで起こった現象であり、さらにいえば日頃の訓練で踏み固められた地面が抉れている。

 満腹武勇――どこかとぼけた印象すら受ける名称のミッカのギフトがどれほどの威力かということを、その場の誰もが認識せざるをえなかった。

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