五話 異世界に召喚されたらチート能力もらったので無双します!
「これってまさにっ、“異世界に召喚されたらチート能力もらったので無双します”って感じじゃん!」
硬めの土が敷かれた運動場のような場所――城内訓練場――を縦横無尽に走り回りながら、キョウジは楽しそうに叫んだ。
宰相であるというマイアが持ってきたアナライズボードによって、異世界から召喚された彼ら使徒たちは神の祝福であるギフトを得ていると確認されたため、さっそくそれを試しにきたという状況だった。
ギフトの大体の使い方というのは、本人からすると自然と理解できているものではあったが、やはり単に頭で理解しているというのと、実践してみるというのでは全く違う。
だからこそ、カラスマという名の“祝福を与えられなかった無能なおじさん”を転げ回らせることを、キョウジは小さな子供のように無邪気に楽しんでいたのだった。
「くっ、うあっ、うぅ……っ!」
一見すると広い訓練場の中央で、たった一人でカラスマがこけたり立ち上がろうとしたり、それに失敗してまたこけたりとしている。何か文句くらいは言おうとするものの、言葉にすることすら許されず、結果としてただただ呻き続ける。
「あはははははっ! これが、僕のっ、速度孤高だっ!」
端から端に現れたり消えたりを繰り返すキョウジが高速移動でカラスマの近くを何度も通り過ぎているのだった。
ただそれだけのこと……だが、常人には視認できない速度でのそれは、ちょっとした交通事故を連続で受けているのに近いほどの状況といえた。
「ふひひ、そろそろ俺に代わってくれ、オタク君」
「あ……、サク君……その呼び方はやめてって前から言ってるだろ……、僕はキョウジだ」
キョウジにサクが声を掛けたことで、カラスマにとっては一瞬の安らぎが訪れる。だがそれによって一気に痛みを自覚してしまい、膝をついて荒く呼吸することしかできなかったが。
「自分たちもテストはしておいた方がいい」
「その通りなんだけど、僕としては先に皆の能力を把握しておきたいんだよね」
さらには離れた場所でテツもカラスマをいたぶるこの“訓練”に参加しようとし、加わる気のなさそうなショウにしても咎めるような様子はない。
宰相の配下だという人間の用意した訓練着に手早く着替えて先に来たために、この場には男性陣だけが揃っていた。
カラスマはというと召喚された時から着ているよれたスーツ姿のままであり、召喚者たちのみならず、ここの人間からも既にどういう扱いを受けているか、いやが応でもわかるというものだった。
だからこそカラスマは不満そうにはしても、それを声高に主張するより息を整え少しでも回復しようと努めていた。隙があれば逃げ出すべきであり、そのために必要なことをしなければならないと。
……先ほど文句を言おうとするもできなかったから、それは早々に諦めたという側面もあるにはあったが。
「俺の得たギフトってやつはなぁ……っ!」
「あ、ようやくコツをつかんできたところだったのに……。まあ、いいか。後でまた僕に代わってよね」
「いや、次は俺だ」
「ちっ……くそがよ」
「あ、テツ君……。あぁ、うん、そ、そうだよね、あ、うん、わかってるよ、大丈夫」
しかし入れ替わりで今度は体格からしてたくましいテツによる暴力が始まり、会話からしばらく逃してくれそうにないことだけは伝わってきた。
「勘弁して……欲しい、もの……ですねぇ」
顔や口内のあちらこちらが切れたり腫れたりしているためにたどたどしく、しかも小声で発されたカラスマのなけなしの不満は、誰に届くこともなく訓練場に舞う砂ぼこりに混じっていった。
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