四話 巻き込まれ召喚?

 「シラギクにショウにアツコに……とあったようですが、名前……ですよねぇ?」

 

 小さな声でカラスマは疑問を口にした。後半のよくわからない称号みたいなものは既に説明されていた――「神の祝福」だ。カラスマにも何のことだかよくわからない言葉の羅列だったが、きっとよくわからない能力か何かなのだろう。

 だからこそ、名前らしき部分の方が気になったのだった。状況からしてこの学生たちはカラスマと同郷だろう。であればカラスマの名前が烏丸からすま義一ぎいちであるように、それと似たものが本来の名前であるはずだ。

 

 「(となると、あの半透明な板が見透かしているのは本人が自分の名だと認識している文字列であって、戸籍や何かを参照していたりするわけでもないのでしょうね)」

 

 アナライズボードに表示された名前というのが具体的には何であったのだろうか、というカラスマの思考は現実逃避にほかならなかった。目の前にあるファンタジー的アイテムが異世界にハッキングを仕掛けていようが、脳内をスキャンしていようがどうでもいいし確認しようもないことだからだ。

 しかし世間から見ればいい年をした大人だとしても、突然理解できない現象に巻き込まれた挙句、どうも自分だけは“仲間外れ”なのではないかと薄々察してしまうなんてことになれば、カラスマだって目を逸らしてしまいたくもなる。

 

 「では最後の使徒様」

 「(このまま黙って立っていれば壁の染みだとでも思って無視してもらえないでしょうかねぇ……。まあこの部屋の壁は染み一つないですけどね)」

 

 マイアの視線はまっすぐにカラスマの方を向いている。なんならカラスマもちらりとマイアを見てから再び目を逸らしたので、「最後の使徒様」イコールまだアナライズボードで鑑定をしていない自分であることは明らかに気付いている。

 

 「おじさん、呼ばれてるよ。だいじょぶそ?」

 「ああ、はい、すみません。大丈夫です」

 

 アナライズボードの情報によればミッカというらしい華やかな見た目の女子生徒に再び話しかけられて、カラスマは肩をびくりと震えさせた。

 そして観念して皆の前――マイアの隣にあるアナライズボードの正面――へと進み出た。

 

 「……?」

 「はは……」

 

 表情だけで疑問を浮かべたマイアにカラスマは愛想笑いで誤魔化す。学生たちにおじさんが紛れていることを不思議に思われたのか、それともやけにためらうことを疑われたのか、それを聞くような溌溂とした気力はない。

 

 「では……!」

 『カラスマ』

 

 「むん」と気合を入れてカラスマが手を置いたアナライズボードには、彼がよく周囲から呼ばれる名前だけが表示される。フルネームなどではないことは他の面々と同じだ。しかしその後に何も表示されずただ名前のみというのはこの場で初めての表示だった。

 

 「…………もう一度だ」

 「どうしたの?」

 「名前しか出ていなかった」

 「それってつまり……」

 

 マイアが淡々と指示を出し、カラスマは困ったような表情の無言でそれに応じている後ろでは、アツコが今気付いたとでもいうように質問をして、テツが興味もなさそうに教えている。最後に呟いたショウはというと、どこか楽しそうに推移を見守っている様子だが、その目に宿るのはどうにも友好的でも心配している風でもない種類の光だった。

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