リナからのプレゼント

 さて、もう引退する少し前だったと思う。リナが豪華装備をプレゼントしてくれた。

 それまで、彼女とは職が同じなのでパーティを組む機会はなかった。

 一方、彼女には職の違う妹や弟がおり、そちらとは一、二回組んだ記憶がある。しかし、リョウが合戦に入り浸るようになると、それもなくなった。その意味では次第に疎遠になっていたが、ときどきチャットで長話をしていた。

 そんなある日、リナから「ねえ、薬師用の衣装作ったんだけど、いらない?」と尋ねられた。

 そこで「いらない」と答えるほどリョウは奥ゆかしくない。


 久しぶりに二人で待ち合わせて、衣装を譲ってもらった。もちろんタダである。

 それは豪華な着物で、華麗な能力値付与がついていた。

 よく知らなかったが、リナはいわゆる本気装備の生産に手を出していたようだ。それをやるには、作業時間も相当なものになる。この衣装を作るためにも、気の遠くなるほどの手間と金をつぎ込んだに違いない。


 しかし、お返しにリナにしてあげられることは、ほとんどなかった。

 せいぜいが、合戦に行くはめになった彼女に、戦場のあれこれを説明する程度だった(一緒に行ければよかったが、仕官先が別でダメなのだ)。合戦嫌いの彼女がなぜ合戦場に行くかというと、家老試験の内容が四天王を倒すことだったからだ。


 ほどなくして彼女から「家老になったよ~」とチャットが来た。気にはなっていたが、取り越し苦労だった。要するに、四天王を叩くところまで行ければ、彼女なら楽勝だったのだ。そもそも脳筋のリョウが家老になれたのだから。


 ちなみにリョウのときは、合戦場で「誰か家老試験手伝ってくださ~い」と叫んだ。すると、よく顔を合わせる紳士たちがすぐに集まってくれ、おかげで危なげなく四天王を倒せた。リョウはその礼を「ありがと~」の一言で済ませてしまったが‥‥‥

 しかし、即席のメンバーで脳筋薬師を家老にしてくれるのだから、やはり彼らは強かったのだろう。感謝である。


 ところで、リナからもらった豪華衣装だが、着る機会はあまり多くなかった。というのは、合戦場に着ていくと「あ、あいつだ」と分かってしまうからだ(一、二度は着て行った)。

 一応、合戦場ではバレバレでも匿名でいたかったわけである(敵方には「家老」とだけ表示され、名前は分からない)。

 もはやダンジョンなどはほとんど行く機会がなく、せいぜい街で着るだけなのは残念だった。


 蛇足だが、生産について触れるのを忘れていた。というのは、全然やらなかったので知らないのだ。もう最初から「これは無理」と放棄していた。

 今は大分改善されただろうが、その頃の生産はマゾ中のマゾ的苦行だった。高付与を達成するには何回も確率に挑戦しなくてはならず、その一回一回に大変な材料集めが必要なのだ。しかも、一回しくじれば二束三文になってしまう。

 なので、リナがくれた衣装ができるまで、いったいどれだけの苦労があったのか想像もつかない。


———そんな苦労の結晶も今や電子のはざまに消え去り、跡形もなくなってしまった。文字通り全てが無に帰した。

 もちろん合戦場でのリョウの活躍もだ。まさに無。


 筆者はこの気持をどう表現したらよいか分からない。

 月並みに、寂しいかぎりとでも言っておこうか‥‥‥

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