第3話 八犬士の末裔
蟇田は金閣寺の庭で姿を消したが、その後の彼の行動は誰も予測できなかった。カードを手にした者がその力に溺れ、最終的に破滅するという伝説は、彼が生きていた証として、さらに恐ろしい形で広がっていった。
蟇田の消失後、数週間が経った。
世間では、蟇田が求めていた「日野富子のカード」を巡る噂が広がり、彼の名前が再び街中で囁かれ始めた。だが、その噂には新たな陰謀が絡み、さらに多くの悪人たちが暗躍していた。
蟇田の元同級生であり、ヤクザの世界に深く関わっていた犬田隆弘は、蟇田が持っていた「力のカード」に興味を持ち、再びそのカードの行方を追い始める。彼は、蟇田がそのカードを持っていたことを知っており、それを奪うことで自らの力を増し、組織を支配しようと考えていた。
さらに、犬塚彰や犬飼一郎など、蟇田にとって過去の恨み深い人物たちも、蟇田の死後にその力を手に入れようと動き出す。彼らは、それぞれの欲望と野望に駆られて、再び蟇田のカードを手に入れることを目指していた。
だが、蟇田が金閣寺で姿を消したその日から、奇妙な現象が起き始めていた。金閣寺を訪れた者たちが次々と消えていったり、精神的に不安定になったりする事件が相次いでいた。
蟇田の消失と共に、金閣寺周辺の地域では不気味な出来事が続いた。妖怪たちが再び姿を現し、彼の失踪を追いかけるような動きを見せていた。
最初に現れたのは、座敷童子だった。伝説では、座敷童子は幸運をもたらす存在とされているが、その力が不安定になると、逆に家に不幸を招くこともあると言われていた。金閣寺周辺の民家で、座敷童子が現れ、住人たちに不幸をもたらす現象が続いた。
また、金閣寺の近くで目撃された雪女は、その冷たい息で周囲の空気を凍らせ、あらゆる生物を凍死させる恐ろしい力を持っていた。彼女が現れることで、蟇田の失踪に何か深い因果があることを感じさせた。
数ヶ月が経ち、蟇田の行方は完全に掴めないまま、次第に彼の名前は過去のものとなりつつあった。だが、ある夜、金閣寺の庭に再び一人の影が現れる。それは、蟇田だった。
彼は、以前とはまったく異なる雰囲気を持っていた。彼の目はもはや以前の冷徹な輝きを放っておらず、どこかしら狂気を孕んだ恐ろしい光を宿していた。周囲の妖怪たちは、その姿を見て一斉に静まり返る。
「俺は、もう止まらない」蟇田は低い声で呟きながら、金閣寺の本堂に向かって歩き出す。彼の手には、『日野富子のカード』が握られていた。
蟇田がそのカードに触れると、蟇田の周囲にさらなる異変が起こり始めた。彼の身体が異常に膨れ上がり、周囲の空気がまるで雷に打たれたかのように震えた。カードの力が暴走し、もはやそれを制御できる者は誰もいなかった。
蟇田の暴走を止めるべく、再び現れたのは天狗だった。天狗は、力のカードの力を理解し、それがどれほど恐ろしいものであるかを知っていた。
「お前は、まだその力に取り込まれている」天狗は言った。「お前が求める力は、お前を消し去る力だ」
蟇田はその言葉を無視して、カードの力を全開にしようとした。しかし、天狗は一瞬でその場に現れ、蟇田を一撃で押さえ込んだ。
「これでお前の野望は終わりだ」
天狗は告げると、蟇田の手からカードを奪い取る。そして、そのカードを空中で粉々に砕いてしまった。
カードが破壊された瞬間、蟇田の身体から力が抜け、彼は倒れ込んだ。彼の目に残るのは、ただの虚無感と、己の無力さだけだった。
天狗は、蟇田に一つだけ告げた。「お前は、自らの欲望に溺れ、その結果として破滅した。だが、お前の心の中には、まだ少しだけ光が残っている。それを見失うな」
蟇田はその言葉を聞きながら、涙を流して倒れ込んだ。彼は、ただひたすらに欲望に囚われ、その結果としてすべてを失ってしまった。しかし、最後の瞬間に、少しだけ人間としての心が戻った。
その後、蟇田は金閣寺の庭に埋葬され、彼の物語は伝説となって語り継がれることになった。だが、日野富子のカードは二度と見つかることはなかった。そして、金閣寺の周辺には再び静けさが訪れ、妖怪たちの姿も消えていった。
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