第2話
蟇田は日野富子のカードを手に入れるために、命を懸けて悪人たちの家族を人質に取っていた。彼の心は既に狂気に染まり、カードの力を使って全てを手に入れようと決意していた。だが、蟇田の計画は、想像を超えた存在に引き寄せられることになる。
その日、彼は一人で金閣寺を訪れることを決めた。金閣寺は、力の源として知られ、古来より神聖な場所とされてきた。蟇田は、自分の欲望が暴走し続ける中で、この寺に何か答えを求めていた。しかし、彼がこの地に足を踏み入れた時から、何か異様な力を感じ始めた。
金閣寺に到着した蟇田は、静かな庭園に目を奪われた。澄んだ池に映る金色の建物、周囲の木々の間から差し込む光が神秘的な雰囲気を醸し出していた。しかし、蟇田の心はその美しさに引き込まれることなく、むしろ不安が募っていった。何かが、彼を待っているような気がした。
金閣寺の庭を歩きながら、蟇田は過去の恨みや復讐心が次第に心の中で膨れ上がるのを感じていた。カードを手に入れれば全てが変わる――そう信じて疑わなかった。しかし、ふと足元を見ると、池の中に何かが映り込んでいるのを見つけた。
それは、ただの水面の反射ではなかった。何か不気味な影が、水面を歪めて現れていた。
蟇田がその影に目を凝らした瞬間、周囲の空気が一変した。突如、庭園の中に現れたのは、天狗だった。天狗は蟇田の前に立ちはだかり、鋭い目で彼を見つめた。
「お前がそのカードを求める者か」天狗の声は低く、威圧的だった。
蟇田は驚き、足がすくんだ。これまでの自分の欲望が実体化したかのように、天狗の姿に対して何とも言えぬ恐怖を感じた。しかし、その恐怖は次第に怒りに変わっていった。
「俺はカードを手に入れ、全てを変えるんだ! お前に何ができる!」蟇田は叫んだ。
天狗は一瞬黙ってから、ゆっくりと答えた。「そのカードは、ただの力を超えたものだ。お前が手に入れることで、全てを失うだろう」
その言葉に、蟇田は強い疑念を抱いた。だが、その時、天狗の周りに浮かび上がったのは、まるで光のような力を持った妖狐だった。妖狐は変幻自在の姿で、蟇田の目の前に現れる。
「彼の言う通り、カードには恐ろしい代償が伴う。お前の心は、すでにその力に囚われている」
妖狐は、蟇田に向かって冷徹に告げた。
蟇田はその言葉を聞いても耳を貸さなかった。彼の心は完全に欲望に支配されており、もはや誰の忠告にも従うことはなかった。
「黙れ! 俺が何を求めようと、お前たちに関係ない!」蟇田は怒鳴りながら、金閣寺の庭を駆け出す。
だが、追い詰められた瞬間、他の妖怪たちが次々と姿を現した。河童が池から現れ、鬼の姿をした者が庭の端に立つ。蟇田の目の前には、すでに多数の妖怪たちが囲んでいた。
妖怪たちは言葉を交わしながら、蟇田に向かって歩み寄った。彼の背後には、恐ろしい百目鬼が現れ、百個以上の目が一斉に彼を睨みつける。
「お前が求める力は、ただの力に過ぎない。その力が、お前自身を滅ぼすことになる」
百目鬼の声は、恐ろしい威圧感を持っていた。
蟇田は、全ての妖怪が自分に警告を与えていることに気づき、ついに恐怖を感じ始めた。だが、それでも彼の欲望は抑えきれなかった。
「やめろ! お前たちには関係ない!」蟇田は叫びながら、力のカードを取り出し、空に向かって放った。
その瞬間、カードがまばゆい光を放ち、周囲の空気が激しく震えた。しかし、その力が完全に解放される前に、天狗の力が蟇田の手を押さえつけ、カードを取り上げた。
「この力を使うことは、お前の命をも奪うことになる」天狗は冷静に告げた。
蟇田は、その瞬間、自分が取り戻せない力に飲み込まれつつあることを実感した。妖怪たちはその力を無効化し、彼を自らの欲望から解放しようとしていたが、蟇田はそれを拒んだ。
「これで終わりだ」
妖狐が言うと、他の妖怪たちが一斉に姿を消し、金閣寺の庭には静けさが戻った。
だが、蟇田はその後、行方をくらますことになる。誰も彼の姿を見なくなり、金閣寺は再び静かな場所となった。しかし、その後も噂は広まり、彼が求めた力がいかに恐ろしいものであったかが、次第に語り継がれることになる。
カードを手に入れた者が、いかにして破滅に向かうのか――その物語は、金閣寺の静寂の中で、今もなお語り継がれているのだった。
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