第9話 『対策会議』

 


〔王国歴377年 従地神月ムウンゼウルラーザ7日〕

 



 初めて入ったトーマス・グスタフソン騎士爵の執務室だが、まあ、駆け出しの騎士爵ならこんなもんだろうという装飾品しか無かった。


 これが100年以上の歴史を持つカールソン家家長の執務室なら、歴史に裏打ちされた品々が並べられているところだ。

 まず、国王陛下から下賜された記念品は飾られている。

 例えば、隣領に在った小さな未発見のダンジョンが魔獣飽和スタンピードを起こした時に、逸早く駆け付けた事に対する国王からの感状はわざわざガラスで加工して飾っていたくらいだ。

 その他にも細かいものも含めて数多くの記念品を飾っていた。


 グスタフソン騎士爵は自分の執務机の椅子に座り、従士3人がその後ろに立って、俺たち3人が来客用のソファに座ったところで、グスタフソン騎士爵がおもむろに口を開いた。

 どうでも良いけど、グスタフソン騎士爵と俺たち3人にはハーブ茶が用意されているが、従士3人には飲み物が用意されていない。

 まあ、立ちっぱなしなら飲み様が無いか。 



「さて、今後の対応を話し合っておきたい。まずは優先事項だ。何を優先し、その対策をどうするのか? 考えられる問題点は? 用意する物は? 誰が対応に当たるのか? ざっとこんな所を早急に決めたい」


 こういう場合、俺が発言する事になっている。

 アルマもエッサも、対お貴族様との交渉スキルが絶賛家出中じぶんさがしのたびのさいちゅうだからな。

 いや、最初から居なかったかもしれん。


鏖殺猿の魔獣ゴレーザー・ジェノヴ・エイヴィへの対処を最優先事項とせざるを得ないでしょう。幸いと言って良いか分かりませんが、僕たち3人は同規模の群れを殲滅した経験が有ります」


 その俺の言葉に、グスタフソン騎士爵の従士3人全員が驚きを目に宿した。

 

「驚いたな。「討伐士組合」から貰った資料には書いていなかったが?」


 俺は一旦喉を潤わせる為にハーブ茶を少しだけ口にした。


「緘口令を敷いたんです、組合が。町のごく近くの林に出没したので、パニックにならない様に」


 あれは偶々俺たちが最初に遭遇したから一瞬で潰したが、もし違うパーティが遭遇していたら、町にまで被害が及んでいたな。


「おかげで、5日間、他にも群れが無いかを徹底的に探す羽目になりました。一応、きな臭い証拠だけが出て来たんですが、守秘義務の為に詳細はお伝え出来ません」



 魔獣の対処だけでも経済的・社会的なロスが大きいのに、人類同士で争うなんて、もう一度滅びの寸前まで行かないと目覚めないのかもしれないな。

 まあ、文明の進んだ異世界にも愚かなヤツは死ななければ完治は出来ない、という風刺の言葉が有ったくらいだから、人類という種の限界が分かるな。



「なるほど。ならば、対策を任せても? 開拓村のみんなを駆り出しても良いが、討伐士としては少し錆び付き始めているからな。家庭持ちも多いしな」

「はい、討伐依頼を承りました。今回は前回の失敗を踏まえ、追跡用の魔法を掛けておいたので結果はすぐに分かるでしょう。多分、今日中にも殲滅出来ると思います」

「何と言うか、等級詐欺と評される訳だ。全盛期の俺たちでも準備に2日は掛けるぞ、なぁ」


 呼びかけられた3人の従士は、話がほぼ終わったので、肩の力を抜きながら答えた。


「いえ、リーダー、3日は貰わないと。しかし、正直信じられないという気持ちも有ります」

「何故、急に鏖殺猿の魔獣ゴレーザー・ジェノヴ・エイヴィの群れが出現したか? そんな兆候が有れば掴んでいたのに、と言った所でしょうか?」

「ああ」

「詳細は守秘義務の為に伝えられませんが、言える範囲でお伝えするとすれば、遠征の準備をしておいた方が良い、と云うところでしょうか?」

「なるほど・・・ 大変参考になる意見だ。もし何か有れば気軽に来てくれ。他に何か有るか?」

「それでは1点だけ。今回の件が終われば、ダンジョンの調査と、資源が採れる様ならばちょっとした採掘の許可を頂きたいのですが?」

「ん、何か必要な物でも有るのか?」

「ええ、人1人分の重さの資源が必要でして。念の為に言っておきますが、鉄とか金とかのお金になる資源では有りません。屑資源の赤石が必要な資源です」

「まあ、それなら構わんが」

「ありがとうございます。では、これから討伐に向かいます」



 よし、言質は取った。


 さあて、久しぶりに本格的な討伐だ。


 あ、アルマもエッサも、その顔は止めなさい。

 肉食獣過ぎて、身を固めたがっている女の子の顔じゃないからな。




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