第8話 『精霊』
〔王国歴377年
「討伐士の3人は予定が無ければ、領主館まで一緒に来てくれるか? 幾つか打ち合わせをしておきたい」
「ええ、良いですよ。このまま討伐に出ても、さっきの話が気になって集中力が続かないですからね」
「助かる。リリー嬢は予定通り子供たちの勉強を見てやって欲しい」
「はい」
そう言う事で、俺たちはグスタフソン騎士爵と一緒に領主館に向かった。
リリーは子供たちと仲良くお喋りをしている。
うん、リリーはグスタフソン騎士爵の子供2人に慕われている事が明白だな。
そりゃあ、可愛くて賢くて性格のいいリリーを嫌う人間がこの世に居るだろうか?
いや、居ない。
やはり、リリーは異世界で言う「天使」だ。
どうでも良いけど、こちらには「天使」に該当する存在は居ないし、俺に憑いているエレムの様な「精霊」は認知されていない。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
神々は世界を作った後、それぞれが居心地の良い場所で星になった。
その御姿は恒星であったり惑星であったり衛星であったりする。
ちなみにこちらの世界では天文学など碌に発達していない。
してはいないが、それでも地動説が信じられている。
異世界風に言うと、
神々は遠くから人類の行いを見て、状況に応じて手助けをしたり罰を与えたりするらしい。
何故、人類だけがそんな扱いを受けるかと言えば、自然発生した危険分子の知的生命体だからだ。
決して、神々の姿に似せて作られた「神の子」だからではない。
その証拠の一部は、この国で一番信徒の多い『諸神教』の経典に残っている。
それによると、人類は1度、ほとんど滅びたとされる。
経典によると、人類に対する天敵が居ない事も有り、大昔の人類は、神を敬わず、傲慢なふるまいを行い、人類以外の地上の多数の生き物が根絶やしになる様な愚行を長年続けたそうだ。
当然だが、
その一方、人類絶滅へのカウントダウンが進む中、魔獣に対抗する為の術として、信仰をすれば『恩寵』を授けられる様という「蜘蛛の糸」を垂らした。
そうして、人類が神を敬う事を忘れて傲慢なふるまいをする事を封じた。
長い年月を経たのち、人類はやっと許され、「天敵としての魔獣」から「試練としての魔獣」へと変更された。
農耕も技術改革が進み、それに伴って人口も増えていたから、新たな生活圏が求められた。
開拓時代の幕開けだ。
まあ、役割が変わったとしても魔獣が強敵な事は変わらないので、簡単にはいかなかったんだが。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そうそう、「天使」の話だった。
「天使」は居ないが、「精霊」と「妖精」は存在する。
俺に憑いているエレムが精霊と言う事はこれまでに何回も言ったが、異世界のラノベでよく使われる
1柱で6つもの元素を司っているせいか、野良の精霊で有りながらかなり格の高い精霊だった様だ。
そんな存在が何故か俺に憑いたのだから、そりゃあ何度も死線を彷徨う訳だ。
で、異世界のラノベでは精霊も神の使いとされている場合も有ったんだが、こっちの精霊は自然発生した「矮神」、「準神」、「亜神」とでも言うべき存在だ。
『諸神教』の経典には「精霊」が出て来ないからだ。
経典がアップデートされない限り、俺は「邪神憑き」と断罪される可能性が高いって事だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます