第5話 『周辺探索』
〔王国歴377年
新居の初めての朝は、ウッグ鳥の大合唱で目が覚めた。
いやあ、知識として開拓村では卵を供給してくれるウッグ鳥が必ず飼われているとは知っていたが、
よくもまあ、野獣を呼び寄せないものだ。
昨夜分けて貰っておいたパンと、自作の干し肉と同じく自作した乾燥野菜を使って簡単なスープを適当に作って朝食にした。
今日は俺とアルマとエッサの3人は、開拓村周辺の地理をグスタフソン騎士爵から聞いて、それから開拓村周りの確認だ。
明日から実際に現地を確認する予定だ。
さすがに着いた翌日からの本格的な活動は疲れが取れないからな。
無理をする状況じゃないだろうし。
リリーは午前中は家の中の片付けの残りをして、午後からはグスタフソン家の子供たちの教育を受け持つ予定だ。
昨夜の宴会でポロっと出た話だが、こういう出来たばかりの開拓村では教師が来てくれないから、親などの身内が文字と算数を教える事が普通だからどうしても偏ったり不足したりするらしい。
グスタフソン騎士爵も悩んでいたみたいで、リリーが教師役を買って出たら、驚きながらも喜んでいた。
まあ、リリーは8歳とは言え、地頭が良くて、物覚えも良くて、俺と違って賢いから、下位貴族専門の教師からとは言え、年齢以上の、そうだな、異世界で例えるなら中学校級の教育を受けれたからな。
こちらでは中学校級と言えば、かなり上級な教育になる。
ただ、礼儀作法に関しては下位貴族向けしか受けれなかったので総合的には高位貴族には敵わんが。
なんにしろ、性格も良いし、頑張り屋だし、リリーは本当に自慢の妹だ。
アルマとエッサが合流して、村の中央の広場に隣接して建てられているグスタフソン騎士爵邸に向かう。
さすが2年前から開拓が始まった新しい村だけあって、丸太小屋の街並み?はキレイだ。
道の舗装にまでは手が回っていないので、若干土埃が上がるが、開拓村だから10年後もこんなもんだろう。
うーん、どこかで見た風景だと思ったら、異世界で見た「セイブゲキ」とかいう「エイガ」のワンシーンだ。
細かい所は全然違うが、雰囲気が良く似ていて、なんか物凄く腑に落ちた。
「この辺りの林には、主に野生の
グスタフソン騎士爵からの情報提供はもの凄く有意義なものだった。
まあ、4大精霊を表す「 elementals」から名付けた俺に憑いているエレムがウロチョロして、ちょっと邪魔だったのは内緒だが。
うーん、教えて貰った情報からすると、下は10級から上は4級までの野獣と魔獣が居るというところだな。
うん、こういう未開発地を抱える開拓村では、開発済みの地域では出ないイレギュラーな魔獣が偶に出て来るらしいので、ソイツらにさえ気を付けておけば、特に問題は無いだろう。
一度帰宅して、4人で昼食を摂って(何故かアルマとエッサも当たり前の顔で食っていた)、午後の予定を熟す為に家を出た。
鍵は先に帰宅するだろうリリーに預けたが、何故かアルマとエッサも当たり前の顔で鍵を渡していた。
解せん。
今日の門番はペールとアールトの2人だけだった。
昨日は行商人と俺たちが来る頃だろうと言う事で3人フルメンバーで待っていたらしい。
門を人間が通れるだけ開けて貰い、外に出る。
ちなみに、門は隣村への道に面した一カ所にしか無い。
強度の弱い部分は極力無くしたいからだ。
とは言え、村を囲っている柵が万全かと言えば不十分と言わざるを得ない。
柵だけでなく壕も巡らしているが、5級相当で且つ大型の
何気に、俺たちの新居の為に拡張した一角は壕が無いので一番の脆弱部分だったりする。
エレムが居るから不意打ちは無いだろうが、リリーの安全の為にも今日中にも壕を掘っておこう。
村を囲う壕から20㍍ほどは草も刈られて見晴らしが良くなっている。
よく見ると、小型の害獣対策用なのか、獣が嫌う匂いを出す匂草を植えているのが分かった。
ネズミみたいに家に進入して来る害獣には効果が有るだろう。
こういった細かいノウハウは元討伐士ならではだが、匂草を用意して植える時間と手間を考えると素直に感心するしかない。
緩衝地帯がしっかりしていて歩き易いから、開拓村の周りをぐるりと廻って拡張部分に行く事にした。
感想としては、たった2年でここまで築き上げた努力に素直に賞賛するというものだった。
うん、ここを選んで正解だな。
いや、正確に言うと、他の要因で選んだけど、現地に来たら別の要因も満足すべき内容だった、いうところだろう。
リリーも馴染めそうだし、本当に正解だ。
伐採済みで放置されていた木の根っこの除去に時間を取られ、新居に帰れたのは夕方になってしまったが、壕の幅と深さと言い、壕の壁の強度と言い、完全にオーバースペックな土木工事をしてしまった。
まあ、リリーの安全度が上がったから良しとしよう。
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