第4話 『マイホーム』

 


〔王国歴377年 従地神月ムウンゼウルラーザ3日〕



 案内された2軒の家は村の森寄りの位置に在った。


 用意された家は平屋の丸太小屋で、新築されたばかりの様に見えた。

 俺たち兄妹とアルマとエッサの移住申請が来てから建てられたのだろう。森と村の境界を分ける柵も新しいので、急遽拡張したんだろう。


 移住申請を討伐士組合経由で出したから、等級や実力も伝わっているみたいだし、かなり期待されていると見える。



「お兄様、私、気に入りました。こんな可愛いおうちに住めるなんて。これは頑張らないといけませんね」

「ははは、気に入ってくれて嬉しいな。実力派の討伐士パーティが来るって聞いて、みんなで頑張ったんだ」

「そうなんですね。後で村の皆様にお礼を言わなくては」


 ヨハン氏がリリーの純粋な喜びに当てられて笑顔で情報を教えてくれた。


 どうでも良いが、丸太小屋は何故か開拓村に来た、という気にさせるな。

 異世界での追体験のせいかもしれない。



「それと裏側には薪にする木材を乾かしたり、家に置かない道具などを置いておく簡単な小屋も在る。獲物を解体する小屋も2軒共用だが用意しておいた」

「おお、それは嬉しいな。さすが元討伐士が領主だけあって、分かっているみたいだ」

「ああ。もし自分たちが移住するならどんな家を用意されたら嬉しいかって考えながら建てたからな。まあ、井戸も川も近くに無いので、そこは魔法を使って何とかして欲しい」

「それは大丈夫。こう見えてもエリアス坊やの水魔法はとんでもない容量だからね。下手したらこの村でる水を全て賄えるよ」

「それは凄いな。リーダーが逸材が来るぞ、って言う訳だ。では、これが小屋の鍵だ」


 そう言って渡されたのは棒状の本体に突起が幾つか付いているだけの簡単な鍵だ。

 金属製なだけマシと考える方が良いな。


「じゃ、後でな」


 そう言ってヨハン氏は村の中央に戻って行った。


 早速鍵を開けて、荷物を持って小屋の中に入る。

 新築なだけあって、木の香りが濃い。

 荷物を全て運び入れた後で本格的に間取りを確認する。

 キッチン、リビング、2つの寝室、トイレ、風呂! 木の板を組み合わせて作った浴槽が用意されている。

 さすが、元3級の討伐士だ。風呂の重要性が分かっているみたいだ。

 



「リリー、軽く旅の汚れを流すか? お湯を出すぞ」

「そうですね、お兄様、お願いします」


 俺は精霊の力を借りながら浴槽にお湯を出し始めた。

 リリーはその間に旅装を解く為にリビングに向かう。

 アルマとエッサが来たみたいだ。会話が微かに聞こえる。

 浴槽の7割ほどにお湯を溜めた後、リビングに行くと3人が嬉しそうに話していた。

 アルマとエッサは早くも室内着に着替えている。

 よっぽど、早く風呂に入りたかったんだろうな。 

 

「エリ坊、風呂を借りに来たよ」

「借りるぜ」

「ああ、今、ちょうどお湯を溜めた所だ。順番に入ろう。初めて入浴する栄誉はリリーに贈るぞ」

「構わないけど、微妙な栄誉だね」

「そうと決まったらさっさと入りな、リリー」



 女性の長風呂と言う事と、一人入る度にお湯を足したので、俺が上がった頃にはちょうど良い時間になっていた。 

 

 歓迎の宴会は行商人たちも参加して和やかな雰囲気に終始した。

 まあ、物資が届いたばかりというのも大きいか。


 グスタフソン騎士爵の家族も紹介されたが、遅くに結婚したらしく、割と若い奥さんとリリーの1つ下の長女と3つ下の長男の4人家族だった。

 2代目騎士爵になる筈の長男は5歳なので、さすがに器量までは分からないが、ちょっとヤンチャそうな顔をしているな。

 上手く育てれば、跡を継ぐには十分だろう。


 紹介してもらった開拓村の村人の労働人口の半数は元討伐士だった。

 これこそが討伐士3級を騎士爵に叙爵する理由だ。

 3級ともなればそれなりに伝手が出来るし、歳を取っていれば引退を考え始める。放っておいても、勝手に開拓団立ち上げの準備をしてくれる訳だ。

 魔獣に襲われても対応可能な開拓団が自然と出来る流れを作った6代前の国王は名君だったらしい。


 それだけに俺の恩寵が「傀儡使くぐつつかい」だと言うと驚いた顔をしていた。

 普通に考えて、「傀儡使くぐつつかい」の様な役立たずの恩寵を持つ討伐士はせいぜい8級くらいで頭打ちになる事が殆どだ。

 現に俺の剣術の実力は頑張っても8級相当の腕前に届くかどうかだ。


 だが、俺にはチートが有る。

 「精霊憑き」だ。

 全てを曝け出していないが、本気を出せば魔法は1級相当だろう。

 異世界の知識から(改めて言うがラノベは魔法開発の発想の宝庫だった)『身体強化』なんて魔法を造って、剣術の技術と擦り合わせをしたおかげで5級相当まで嵩上げが出来ている。

 


 それと、自分の家で使おうと思って持って来ていた俺謹製のフロア用照明スタンドはかなり驚かれた。

 元々、宴会でお披露目をする予定では無かったんだが、丸太小屋の内装が結構手の込んだものだったので、かなり腕の良い木工職人が居ると見込んで、この開拓村の特産品にしようと思い付いたんだ。

 その為の掴みだ。


 これで、この開拓村に太い現金収入源が出来るし、行商人たちが訪れる機会も増えるだろう。


 まあ、引っ越しの挨拶の粗品代わりだ。


 そうそう、アルマとエッサの2人だが、身を固めようかと言っていた癖に、本性を初日からバラしてしまっていた。

 気が付いたら、独身男性達と熱い友情を結んでいやがった。

 





2024-11-20公開

お読み頂き、誠に有難う御座います。


 第5話『周辺探索』は2024-11-21(木)~24(日)に投稿予定です。

 これからも週に2話程度の頻度で(休みごとに書き上げて)投稿する予定です(評価が芳しくなければ頻度が落ちますのでご理解とご協力を賜わります様に伏してお願い申し上げ候)。

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