第3話 『開拓村到着』


〔王国歴377年 従地神月ムウンゼウルラーザ3日〕


 

 3日間掛かって、魔獣から村を守る柵に囲われた目的地の開拓村に到着した。


 1日に40㌔くらい進んだから、元の村から120㌔ってところだ。

 最初の2日間は町や村が在ったので、宿に泊まれたし、獣車を曳くホッグと呼ばれる4足歩行の草食獣の餌も補充出来たが、最後の日は野宿だった。

 当然、湯で身体を拭いただけなので「旅の汚れ」を落したいが、風呂とか無いだろうか?


 門の上に見張り台を兼ねたやぐらが渡されていて、そこに門番の人が居た。

 獣車の上から見える限り中年と青年の2人の男性が門番をしている様だ。



「おお、待っていたぞ。で、誰が移住希望者だ? 連絡では4人と聞いているが」 

「まあ、まずは村に入れてくれ。ちゃんと紹介するさ」

「よし、ペール、問題無しだ。門を開けてくれ」


 ペールと呼ばれた3人目が門を開けてくれた。


 意外ときっちりとしたルーティンを守っているな。

 もしかしたら、盗賊とかがこの辺りに居るのだろうか?

 事前の調べではそんな情報は無かったけどな。

 うーん、討伐士歴1年では短過ぎて、そういう襲撃は経験していないから、余りノウハウは無いんだけどな。


 どうやら、商隊を待っていた様で、住民のほとんどが村の真ん中の広場に集まっていた。

 この村の人口は20戸57人で、領主は2年前に騎士爵に叙爵された元3級討伐士だ。

 年齢までは分からなかったが、3級まで昇格したって事は、その領地の討伐士の上澄み1割の中に入っていたという事だろう。 


 討伐士という稼業は異世界で言うフリーターに近い。

 「討伐士組合」、ラノベ風に言えば「ギルド」になるんだろうけど、小説の様な全国的な規模ではなく、基本はそれぞれの領主の領土内にしか権限が無い(騎士爵の様な小さな領土の場合は近隣の領土と互助協定を組んでそれなりの規模にしている。だから俺は隣町の討伐士組合で活動が出来ていた)。

 全国的なつながりは上部組織の「討伐士組合連合会」になって、会則などを統一したり、いざという時に結束して外部と対抗するらしい。

 異世界の日本では該当する組織は無いな。


 で、なんにしろ3級まで昇格すると、王国から勧誘が来る慣例だ。

 最下級とはいえ貴族身分の騎士爵叙爵はそろそろ引退を考えている討伐士にとっては魅力だ。

 ただ、何も貢献しなければ3世代だけの身分保証しか無い為に、大体はその武力を活かす為に開拓村立ち上げに挑む事になる。

 一定量の穀物か一定額の国税を収めなければ3世代目が死んだ段階で王様に開拓村を献上しなければならない。世知辛い。

 ちなみに俺が廃嫡になったカールソン家は100年ほど前に開拓村立ち上げに成功して永代貴族になった家系だ。

 


 3人の行商人と挨拶を交わしだした人物がこの開拓村の領主のグスタフソン騎士爵だろう。

 50歳台か? 思ったよりも歳を取っている。

 パッと見た感じ、顔の皺が多くて、苦労人に見えるな。


 挨拶が終わって、行商人たちは商売の準備に取り掛かった。

 あと2時間くらいで日が暮れるが、そんな短時間でも開拓村にとっては待望の時間なんだろう。

 

 グスタフソン騎士爵が俺たちの方に来た。

 うーん、僅かだが左足をかばって歩いている。

 

「待っていたぞ。その若さで、そしてたった1年で7級討伐士になった期待の新人と聞いていたからな。おっと、挨拶が未だだったな。トーマス・グスタフソンだ。知っての通り騎士爵を賜わっている」

「ご尊顔を拝しまして恐悦至極に存じます。自分はエリアス・エリクソンで、こちらが妹のリリー・エリクソンでございます」

「リリー・エリクソンでございます、閣下」


 おお、リリーがスカートを摘まんでチョンと腰を降ろす仕草を完璧に熟したぞ。

 今は2人とも平民とはいえ、礼儀作法を疎かにすると両親の教育を馬鹿にされるからな。


「ふむ、2人ともしっかりとした教育を受けて来た事が分かるな。だが、これからはそれほど礼儀作法に気を使わなくても良いぞ。知っての通り、俺も討伐士上がりだからな、堅苦しいのは苦手だ」

「はい、分かりました」


 グスタフソン騎士爵は再度俺たち兄妹を見てニッコリとした後で、俺の右横に並んでいるアルマとエッサの方に向いた。


「確か2人は6級だったな?」

「ええ。まあ、そこのエリアス坊やにいつ追い付かれるかとビクビクしている程度の6級ですけどね」

「ははは、3人のパーティは等級詐欺と言われる程完成されていると聞いているぞ。すぐに5級に上がれるさ」

「でしたら良いんですけどね」

「今はまだ確定していないから言えんが、3人にとっても朗報になるかもしれん話が有る。しばらくはこの村に馴染んでくれれば良い。この後、歓迎の宴会をするので、日が暮れたらここに来てくれ。ヨハン、4人を家に案内してやってくれ」


 グスタフソン騎士爵の後ろで待っていた30歳くらいの男性が前に出て来て、俺たち4人の荷物を台車に積み込んだ後で案内を始めた。

 きっと、このヨハンと言う人は従士の1人だろう。


 ちなみに、騎士爵の貴族は、王国にいざという事態が起これば、従士3名と共に参陣する義務を負っている。

 その他は、男爵位は従士9名、子爵位は騎士爵位1名と従士18名、伯爵位は騎士爵位5名と従士54名、侯爵位は騎士爵位15名と従士144名が最低ラインだ。

 普通は後ろ指を指されない様に騎士爵位の人数はそのままだが、従士の数は最低2倍、豊かな領土か潤沢な人口を持っていれば名誉の為に(別の言い方では面子の為だな)3倍から4倍の規模で参陣する。

 



 うん、グスタフソン騎士爵の言葉は朗報だ。


 この開拓村を選んだ理由の1つ、近くの崖地に新しく生んでおいたダンジョンがちゃんと発見されていたんだからな。






2024-11-17公開

お読み頂き、誠に有難う御座います。


 第4話『マイホーム』は2024-11-18(月)~22(金)に投稿予定です。

 第4話以降は週に2話程度の頻度で(休みごとに書き上げて)投稿する予定です(評価が芳しくなければ頻度が落ちますのでご理解とご協力を賜わります様に伏してお願い申し上げ候)。


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