第2話 『移住』
〔王国歴377年
「お兄様、どんな村なんでしょうか? 良い村だと良いのですが・・・」
可愛い顔立ちのリリーの表情に不安が浮かんでいた。
そりゃあ、8歳という年齢で全く知らない新天地に行くのだから、不安にもなる。
「開拓が始まって2年だから、ある程度の不自由は仕方ないと思うよ。ただし、今なら頑張った分だけ成果が付いて来るから頑張る価値は有る」
『俺』の『恩寵の儀』、『成人の儀』から1年が経っていた。
叔父さんもさすがにすぐに追い出す訳にもいかず、1年間だけは面倒を見てくれた。
本当ならリリーの『成人の儀』を待てれば良かったんだが、さすがにそこまで甘えるのは無理が有る。
まあ、1年間面倒を見て、更に独立する元主家の親族に援助をする事で得られる世間の評価に価値を見出す様に誘導したからね。
大人って汚い。
それと、世間の評判を得る為の餞別も、それなりの額を貰ってある。
更に、餞別とは別に1年の間に自力で稼いだ分と合わせれば、色々な物資を用意してもまだ資金に余裕が有った。
「私、村のみなさんと上手くやっていけるかしら?」
リリーが大人しい気性なだけなら無理だろう。
兄の欲目かもしれないが、リリーは
開拓村で必要とされる技能、例えば食用にする動物の解体や、繕い物や炊事洗濯などの技能を覚えた時の事を思い出せば、外面から受ける不安も消える。
出来れば、もっと
まあ、優しいリリーのままでも、俺がしっかりしてれば良いだけだし。
「リリーなら大丈夫だよ。ただ、最初は余所者扱いされるかもしれないけどね」
「早く打ち解けられる様に頑張ります」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
この準備期間の1年間、俺は「
開拓村で役立つ知識と技能を伸ばす事に費やして来た。
剣技を磨き、魔法の練習をし、異世界の知識を利用した生活用品を開発し、物資が不足しがちな開拓村で自給自足が可能になる様に、実戦と実践を繰り返した。
おかげで、修行をした町の記録だが、討伐士7級まで最短で駆け上がっていた。
「やっぱりリリーちゃんは可愛いなぁ。どこぞの坊やの妹と思えないくらいに」
「ああ、全くだ。どこぞのクソ生意気な坊主とは違って、守って上げたくなるな」
「ああ、そこ、汚い言葉は止める様に。リリーに悪影響だ」
「おお、うっかりした。お嬢様の面前で汚い言葉を使った事、お詫び申し上げます」
「我もお詫び申し上げる故、平にお許しを」
そう言って、獣車の同乗者2人が周囲の警戒をしながらだが、わざとらしい程に気取った口調で謝った。
「アルマさんもエッサさんも、私は気にしてないですから」
アルマもエッサも
彼女たちは2人とも6級討伐士で、10年選手だ。
俺はソロで討伐士稼業を始めたが、偶々或る依頼で結果論として2人の手伝いをした事から、一緒に仕事を請け負う事が増えた。
最後の方では完全に3人パーティと化していた。
かなり優秀なパーティだったよ。
全員前衛と後衛が熟せるし、どうしても火力が必要な時は俺が魔法をぶっ放すというパターンで、討伐数も討伐レベルもすごい勢いで伸ばしたからね。
2か月前に、俺が開拓村に移住する計画を明かしてパーティ解散の希望を伝えたんだが、2人ともあっさりと移住の同行を即決したくらいだ。
その時に言っていたのは、「そろそろ身を固めようかな? それなりに蓄えも出来たし」だった。
その時の俺はよほどポカンとした顔だったのだろう。
2人同時に噴き出しやがった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そうそう、目的地の開拓村に物資を届ける3人の行商人たちが作る商隊の護衛の仕事が請け負えた事はラッキーだった。
だが、それ以上に良かった点は行商人たちと個人的な関係を築けた事だ。
俺が異世界の知識(ラノベと言う小説群には魔道具を開発する為のアイデアが無尽蔵に転がっていた)からヒントを得て開発した照明の魔道具には特に食い付いて来た。
この世界にもロウソクは存在するし、それなりに普及している。
だが、俺が開発した、最低等級に近い9級の魔石をエネルギー源とする魔道具は、一般のロウソクよりも自然な色合いな上に明るい点が長所で、売り方次第では大きな利権に結び付くと興奮していた。
まあ、今現在の所、その魔道具を造れるのは俺だけなので、すぐに大きな市場を作るまでは無理だがね。
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