傀儡使いの下克上

mrtk

第1話 『役立たずの「傀儡使い」という恩寵』


〔王国歴375年 普人月ヒュームラーザ35日〕



 幼い頃の僕は余り身体が丈夫じゃなかったそうだ。

 病気に罹り易く、高熱を出した挙句に何度も心臓が止まったそうだ。

 その度に息を吹き返したそうで、運が良いのか悪いのか分からないとよく言われた。


 きっと、そのせいもあってお母さんは心労が重なっていたのだろう。

 僕が5歳の時に妹のリリーを産んで半年後に亡くなった。


 お父さんも4年後に流行り病で亡くなった。

 なのに、その時は何故か身体の弱い僕は流行り病に罹らなかった。


 お父さんはこの国の王様から騎士爵を賜わっていて、この村の領主だったけど、お葬式を僕の代わりに仕切ってくれた叔父さんが領主代理になってからは僕とリリーは領主館から離れに追い出された。

 領主館? 叔父さん一家が使っているよ。


 それだけ聞くと騎士爵家の乗っ取りなんだけど、まあ、それなりに叔父さんも気を使ってくれたと思う。

 食事もちゃんとしたものを食べさせてもらったし、必要なものは揃えてくれたし、教育もちゃんと受けさせてくれた。


 お父さんが亡くなった後で、またもや死にかけた僕の為に、ちゃんとお医者さんを呼んでくれたしね。


 まあ、これは大人の事情が有るんだけどね。

 だって、騎士爵を受け継ぐ資格の有る僕が成人前に死ねば、カールソン家は取り潰しの上、この村は王国に返還されて代わりに誰か騎士爵を賜わっている人が来るからね。

 そんな訳だから僕を死なす訳にはいかなかった、って事だ。


 12歳になって行われる『恩寵の儀』以降はいつでも『成人の儀』を行えるから、その後に僕から叔父さんへの騎士爵委譲申請を出させる積りだろう。

 こうすれば、僕が自主的に叔父さんに爵位を譲り渡す形式が整うからね。


 さて、ここまで僕の身の上を語って来たけど、かなりませた子供という印象を抱くに違いない。

 その印象は正しい。

 明日の年明けと共に12歳になる僕には誰にも言えない秘密が有る。


 お父さんが亡くなって3ヵ月後に起こった最後の復活?蘇生? の時に、僕が『恩寵』を神様から賜った事だ。


 「異世界知識【微】」という『恩寵』で、地球と呼ばれる惑星の日本と言う国で30歳で病没した男性の一生を追体験するというものだった。

 彼が好んで読んでいた『剣と魔法の異世界転生モノ』と違って、僕は僕のままだった。

 そう、『剣と魔法と魔物』は在るが、ラノベと言う小説での異世界転生では無い。


 他人の一生を追体験したけど、感情の追体験が含まれなかったから、多分、僕は僕のままで居られたんだと思う。


 だけど、影響は大きかった。


 子供らしからぬ態度をとる子供

 知らない筈の言葉を使いこなす子供 

 高度な教育を受けていないにも拘わらず高度な教養が垣間見える会話が出来る子供

 大人顔負けの交渉術を駆使する子供


 叔父さんは不気味な子供だと思った筈だ。

 「異世界知識【微】」という『恩寵』を賜わったせいで、ビフォー・アフターは急に雰囲気まで変わったからね。

 何度も死線を潜ったせいか、それまで大人しい子供だったのに、『恩寵』を賜わった後はふてぶてしい子供になってしまったからね。


 叔父さんも僕を『悪霊憑き』とか、魔物による精神干渉を受けたとして教会に密告する訳にもいかず、困っただろうね。

 まあ、僕も騎士爵委譲後に下手に干渉されるのは嫌なので、少しでも良い条件で生き残る為にした成長だったんだけどね。


 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


〔王国歴376年 天陽神月ゼントゼウルラーザ1日〕


 年が明けて今日、村の教会で行われた『恩寵の儀』で、天陽神ゼントゼウル様から賜った恩寵は「傀儡使くぐつつかい」だった。


 いわゆる「外れスキル」というヤツで、この恩寵で大成した人は居ないそうだ。

 なんせ、恩寵を活かそうとしても、スケルトンくらいしか操れないからね。

 スケルトンという魔物は、最弱とは言わないが、やられ役、もしくは雑魚でしかない。

 スケルトン以外にはスライムも操れるらしいけど、一部のスライム種を除き、更に雑魚扱いだ。


 そんな『役立たずの恩寵を賜わってしまった』僕よりも、「剣技補正【小】」を賜わっている叔父さんの方が騎士爵にふさわしいという声が出るのは当然だ。

 まあ、叔父さんの根回しの成果と言えるけどね。


 

 確かに僕も表面の情報しか聞かなかったら、そう思うだろうね。

 まあ、実際は違うんだけどね。


 僕が賜った恩寵は実は3つ有った。


 1つめは確かに「傀儡使くぐつつかい」だ。

 だけど、【微】でも【小】でも【中】でも【大】でも【特】でも無い事をみんなは見逃している。

 僕しか視えないみたいだけど【極】が付いている。

 どれだけ凄い恩寵か? は、今後の研究次第かな。


 2つ目は「精霊憑き」だ。

 どうやら幼い頃に何度も死線を彷徨ったのは、この恩寵の影響らしい。

 子供の身体には負担が大き過ぎたんだろう。

 『恩寵の儀』で改めて正式に賜ったという事になるらしい。

 特に強度は無いみたいだ。 

 どんな『恩寵』かだけど、外見が僕ソックリな手のひらサイズの精霊が飛び回っているよ。

 ただ、服装は『ジュウドウギ』っていう服に似ているかな?

 偶に僕の顔の前に来て、何か呼び掛けているんだけど、声は聞こえないんだよね。

 その内、会話が出来るんじゃないかな?


 3つ目は「再現」だ。

 どんな恩寵かはよく分からない。 

 ただ、かなり役立つ予感がする。

 これも強度は無いみたいだ。


 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


〔王国歴376年 主地神月オウツゼウルラーザ17日〕


 叔父さんへの騎士爵委譲申請はすんなりと通った。


 まあ、「傀儡使くぐつつかい」よりは「剣技補正【小】」の方が王様の受けが良いからね。

 それと、僕とリリーはカールソン家の家名を名乗れなくなった。

 書類上、僕が廃嫡扱いになったからだ。


 これからは僕ら兄妹の名前は、平民だったお母さんの実家の家名を使って、エリアス・エリクソンとリリー・エリクソンになる。





2024-11-15公開

お読み頂き、誠に有難う御座います。


 第2話『移住』は2024-11-16(土)に投稿予定です。

 第3話『開拓村到着』は2024-11-17(日)に投稿予定です。


 第4話以降は週に2話程度の頻度で(休みごとに書き上げて)投稿する予定です(評価が芳しくなければ頻度が落ちますのでご理解とご協力を賜わります様に伏してお願い申し上げ候)。

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