第7話 これからの物語(みらい)

 進路で悩みつつ、小説にも悩みつつも半年が経った。

 頭の片隅に進路のことを置きつつ、いつものように小説のネタを練っていたら、スマホにメールが来た。

 メールを開くと、いつも投稿している小説サイトからだった。

 コメントを書いてくれたりすると、時々こうしてメールが届いたりする。

 今回も誰かがコメントしてくれたのかと思いながら、サイトを開くと読者ではなく運営様からだった。


 巷に聞く話だと、規定の範囲ガイドラインを超えてしまうと、こうして運営様から注意のメールが来たりするらしい。

 まさか、俺も何かやってしまったのかと急いでメールを確認すると、良い知らせだった。


『どうもお世話になっております“カクゼヨムゼ”運営の者です。

 おムスビペンネーム様、新人作家志望者短編集というものにご興味ありませんか?


 新人作家志望者短編集とは、作家を目指している人に向けに発行されている短編小説を載せた雑誌のことです。

 この雑誌に、ぜひおムスビ様もご参加なさらないかと、ご連絡させていただきました。

 これにはアンケートがあり、票が多かった上位3名の方には、デビューの切っ掛けとして2冊まで短編・長編限らず発行させてもらいます。


 ご興味またはご不明点があればお気軽にご連絡して下さい』


 という内容だった。


「デビュー……」


 これは、またとないチャンスだ。

 多くの投稿者がいる中で、俺も選ばれたということは、少なくとも小説を発行する基準は満たしているということだろう。


 後は、世間の反応を見て、世の中に出して売れるかを判断する。

 順調に売れ、重版されれば、小説家になることも夢じゃない。


「こんなの迷うまでもなく――」


『ぜひ! 参加させて下さい!』


 速攻返事をした。


 その後、返信がきて、締切、必要文字数、注意点などを確認し、早速作業に取り掛かった。

 まだこれから始まるというのに既に緊張していた。しかし、それと同時にワクワクもしていた。


 この話を京にもすると、


「ほんと! すごいよ! 良かったね。だったら、これからは小説に集中しないといけないから、結くんの身の回りの世話は全て私がやってあげるね!」


 と俺よりも張り切っている様子だった。

 けど、こういうとき京みたいな彼女がいてくれて、助かるなと思った。

 分からないけど、バイトを減らし小説に割ける時間が増えたお陰でこういうチャンスが巡ってきたのも知れないと思うと、京には感謝しかない。


 都合の良いことを言うが、あのとき付き合うか迷っていたが、俺がバカみたいだ。

 結果、付き合ったことで、色々運が回ってきた。


「京、ありがとうな」

「? うん!」


 その後、京の世話になりながら、俺は短編小説を書き上げ、無事雑誌に載った。

 アンケートの期限は三ヶ月あり、その間俺はソワソワしつつも、小説投稿を続けていき――五年が経った。


「おムスビ先生、書き上がりましたか?」

「後少しで終わるんで待ってて下さい」

「了解でーす」

「これ、待ってる間によかったらどうぞ」

「ありがとうございます」


 五年後、俺は新人作家として頑張っていた。

 あのアンケートの結果を言うと、俺は三位を貰った。

 後から聞いた話しだが、四位の人とは二票差だったらしい。もし、同票だったら、四人選ばれるか、編集者がどちからを選ぶようだ。


 それから、俺に担当編集者さんが付き、色々助けてもらいながら、なんとか本を出せた。

 売れるか心配だったが、本屋さんの宣伝や編集者さんの手助けなどもあり、何とか本は順調に売れ、俺は念願の小説家になることができた、


 そして、もう一つ。


「それにしても、まさか若手売れっ子作家の“キョウ”先生とおムスビ先生が付き合っていたのも驚きましたけど、結婚までするとは」

「俺も驚きましたよ。まさか、彼女が売れっ子作家だったなんて」

「別に黙っておくつもりはなかったんだけど、むーくんが気にするといけないと思って、なんなか言うタイミングなかっただけだよ」


 なんと、京は高校時代に作家デビューを果たした、新人売れっ子作家だったのだ。

 毎月、俺に渡してくるお金はどこから得たものなのか、なんか怖くてずっと聞けないでいたが、この事実を聞いたとき驚きと同時に納得した。

 そして、そんな売れっ子作家キョウこと京と俺は今恋人から夫婦になった。


 プロポーズをしたのは俺からだ。

 あの短編小説雑誌の話しが来たとき、俺は京の存在にすごく感謝し、もしこの話しが上手くいったときは、京にプロポーズしようと密かに決めていた。

 見事三位という結果になり、無事小説家になった俺は、京にプロポーズした。


「京、こんな俺でよければ――結婚してください」

「……はい! もちろんです!」


 京は涙を流しながら、返事をして俺に抱き着いてきた。

 そのとき、俺たちはまだ大学生だったので、婚姻届を出したのは卒業したその日だ。


 式はまだあげていない。

 京の財力があれば、今すぐにもあげられるが、流石に全て嫁の金というのもなんかカッコ悪い。

 それに、資金なら大学生の頃から十分貰っている。あとは、俺がもう少し稼いで出せれば、そのときには――。


 今の俺は、夢を追い掛けていたばかりの頃の俺とは違う。

 今は、夢を離さず掴み、大切な人との物語みらいを作っていくことを大切にしている。

 ゆくゆくは、二人・・だけではなく、三人、四人・・・・・の未来も作るつもりだ。


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契約彼女 冬雪樹 @fuyuki_yuki

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