第6話 進路

 目が覚めると夕方になっていた。どうやら、あの後眠ってしまったらしい。

 隣を見ると、タオルケットを被った裸の京が寝ていた。


「とりあえず、シャワー浴びるか」


 乾いた色々な液を落とすため風呂場に向かう。俺も裸のため、そのまま風呂に入り、シャワーを流す。

 賢者タイムなのか、寝たからなのか、頭がスッキリとしていた。


 小説を投稿するだけでビビっていたのが嘘のようだ。結局、投稿してしまえばなんてことない。

 本当にダメだったら、改稿すればいい話だ。別に、一冊の小説ほんになるわけじゃないのだから。いくらでも、改稿のしようはある。


 と言いつつも、さっさとシャワーを浴びて、スマホで様子を見たいとは思っている。

 風呂から上がり、身体を拭き、下着を履き替え、服を取りに部屋に戻ると、起き上がりボォーとしている京の姿があった。


「起きたか」

「うん〜」

「京もシャワー浴びてきたら」

「うん〜」


 これはまだ若干寝惚けているな。

 脱ぎ散らかっている自分の服を回収し着替え、スマホをつけ、小説サイトを開く。

 自分のページに飛び、閲覧数を見る。


「ホッ」


 閲覧数はいつもと変わらなかった。評価も少しされ、コメントはないがいつもと変わらない様子だった。

 いい意味での変化は欲しいが、今は読者をキープをするので精一杯だ。

 余裕が出てきたら、もうちょっと頑張ろうと思っている。


 そんなことを思っていると、後ろから京が覗き込んできた。


「いつもと同じ感じだね」

「ああ、よかったよ」

「結くんは、心配し過ぎだよ。もっと自分に自信持っていいと思うよ? 小説を書けるって言うだけでも凄いんだから」

「ありがとう。でも、それであまり調子に乗りすぎると、痛い目見そうで怖いんだよ」

「真面目だなぁ〜。ところで、結くんは大学卒業したらどうするの?」

「卒業後?」

「うん。再来年には卒業するし、来年から就活も始まるでしょ? 結くんは小説家を目指しているけど、たぶん今の調子じゃ卒業までに間に合わないだろうし」

「言われてみれば、そうだな」


 京の言う通り、俺たちはこのまま順調にいけば、再来年卒業することになる。

 しかし、その前に高校の時のようにまた進路問題が出てくる。

 卒業後就職するのか、はたまたもっと専門的なことを学ぶために大学院に行くのか。


 俺はずっと小説家になることを目指していたから、就職する気も大学院に行く気もなかった。

 けど、そうなると卒業までに小説家になれる予定を確保しないといけない。


 だが、正直今のところなれる気が一切しない。


「どうするか」


 大学院に行ってまで、知りたいことも学びたいこともないから、就職するしかないが、働きたくない。

 このまま小説家を目指し、正社員またはフリーターになるという選択肢もある。


 問題は、それを親が許すかどうかだ。

 現実主義の親ではないが、夢ばかりみているなとは言われそうだ。


「そういう、京はどうするんだ?」

「私? 私はもう決まってるよ」


 何気に、京が何かをしているところって見たことないんだよな。

 自分で言うのもなんだが、京の行動全てに関して俺が関係しているから、あまり京自身の行動って見たことがない。


 ちょくちょく小説や漫画は読んでいるのを見たことあるが、別にそれらを目指しているようでは無さそうだし。


「何になるんだ?」

「もちろん――結くんのお嫁さん♡」

「嫁って……。俺に経済力がないのに結婚なんていつになるのやら」

「大丈夫! 経済力は私があるから!」

「俺は専業主婦でもしてろってか?」

「ううん。いてくれるだけでいい。好きなことしててくれるだけでいい。結のくんの身の回りのお世話は全て私がするから。私がいないと生きていけない身体にしてあげるから♡」

「怖い怖い」


 冗談に聞こえないから余計に怖い。おそらく、冗談ではないだろうけど。


「結婚か」

「もしかして、したくないの?」

「いいや、そういうわけじゃないけど、あまり想像できないなって」

「そう? 私は何度も結くんとの新婚生活想像してるよ? たまに、どっちが現実が分からなくなるぐらい」

「すごいな」


 そのうち、想像妊娠でもしそうだ。

 結婚の話しは置いておいて、まずは目前まで迫る現実のことを考えないとな。


 取り敢えず、大学院には行かないだろうから、就職かフリーターの二択になるだろう。

 一般的には、働きながら夢を追って、夢を叶えたら仕事を辞めるのが最善だろう。

 小説家と一言で言っても、仮になれても本が売れなきゃ生活できない。だから、小説家の中には、働きながら小説家をする兼業作家もいるらしい。


 なって終わりじゃない。なってからようやくスタートラインに立てるのだ。

 そこからは、他の作家との競争だ。


「無難に就職かな」

「別に無理に働かなくても、私が養って甘やかして尽くして愛してあげるのに」

「それは最後の最後の最終手段でお願いします」


 京の誘惑に負けないように、とにかく俺は小説家を目指すのだった。

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