第5話 プレッシャー

 別にスランプになったわけではない……と思う。

 プロットも書けるし、ネタも幾つもと言うわけではなくとも思い付く。

 脳内に物語は浮かび上がってくるし、書く気もある。


 でも、最後の工程である“投稿”というボタンが押せないでいた。

 そのボタンを押すまでに、何度も書いた物語ストーリーを読み返した。

 誤字脱字はないか。矛盾点はないか。おかしな所はないか。ルビーは合っているか。

 何度も何度も確かめ読んだのに、最後の投稿というボタンだけ押せなかった。

 原因は分かっている。


 最近、嬉しいことに、俺の小説はまだまだ人は少ないが、徐々に読まれるようになった。

 評価やブックマークの数字も増えてき、時々コメントも来るようになった。

 待ちに待った|好機(チャンス)だ。彼女である京も言っていた通り、これを気にどんどん読まれるようなり、俺の夢であり目標である“小説家”に一歩近付くかもしれない。


 しかし、よかったのはその瞬間だった。

 読まれるようになり始めてから、俺はより一層筆が乗り、やる気も出てきていた。

 今までも小説を書いていて楽しかったが、今はもっと楽しい。なぜなら、読んでくれている人がいるからだ。

 やはり、創作物というのは、誰かに見てもらう方が、自分のモチベーションアップにも繋がるし、意欲的にもなってくる。


 だが、それと同時にプレッシャーにもなってくる。

 人が見る、人に見られるということは、その人に評価されるということだ。

 その人が素人だろうが玄人だろうが関係ない。見る人によって、良し悪しは違うのだから。


 他人の評価をあまり気にしない、参考程度にしか思わない人からすればプレッシャーなどはないかもしれないが、俺のような底辺からようやく登り始めた奴からすれば他人の評価は嫌でも気にしてしまう。


 つまり、俺は今、他人からの評価に怯え、自分が書いた物語ストーリーが面白いと思ってもらえるのか不安で投稿できないでいた。


 今は順調に閲覧数が増えている。しかし、何が切っ掛けで減っていくか分からない。

 一話でも面白くないものも書いて投稿したら、それを気にまた前のような誰にも読まれない日が続くかも知れない。せっかくのチャンスを無駄にしてしまう。

 俺はそれが怖い。だから、何度も読み返している。けれど、投稿はできない。


 どちらにせよ、このまま何時までも投稿できないでいたら、結局読んでくれる人を減らすことになる。

 結果など、投稿するまで分からない。勿論、京にもしつこいぐらい読んでもらった。

 だけど、京は俺がどんな物語を書いても面白いと言う。本当に面白いと思ってくれているのか、ただ何でも肯定しているだけなのか、わからない。


「まだ、投稿しないの?」

「なんか、怖いんだよ。これでまだ前にみたいになったらって」

「前って、あまり読んで……」

「言わないで」

「ああ、ごめんね」

「せっかくのチャンスを無駄にしたくない」

「そうなんだ。でも、投稿しないと分からないよ?」

「そうだけど、押せないんだよ」

「じゃあ、私が代わりに押そうか?」

「…………」


 そうか、自分で押せないなら、人に押してもらうという手もあったのか。

 このままじゃ、埒が明かなそうだし、いっそのこと京に押してもらうほうがいいな。


「頼む」

「わかった」


 パソコンの画面を京に向け、マウスを渡す。

 京がマウスに触れ――


「結くん、触れてもらえるのは嬉しいけど、手掴まれてたら押せないよ?」

「ご、ごめん。でも、なんか手が勝手に」


 俺は、どこまでビビリなんだろうか。どの道、このままでは結果は変わらないというのに。

 俺の意思とは真逆に手が勝手に京の腕を掴んでいると、京はもう片方の手でタッチパッドを操作しようとする。すると、俺のもう片方の手も動くが、京が体を捻りガードしたことで、その手は腕ではなく胸を掴んだ……いや、揉んだ。


「結くんのエッチ」

「いやっ! ちがっ」

「えい、ぽち」

「あっ……」


 俺の作品は投稿された。

 投稿したものを消すことはできるが、流石にそこまでしない。それをし始めたら、もう終わりだ。


「投稿完了」

「体でガードはズルいだろ」

「私は結くんのためなら、体だって張るよ?」

「絶対今じゃない」


 何はともあれ、無事? 投稿できてよかった。

 後は、反応を見るだけ。だと思っていたら、隣から熱い視線を感じる。


 隣を見ると、目をハートにさせた京がこちらを誘うように見ている。

 京の指が俺の指に絡めてくる。体重を俺に預け、顔を近付ける。唇と唇が重なる。

 チュッチュと何度かキスをしたのち、俺の唇を割って京の下が入り込み、俺の舌と絡め合う。


「んぅっ〜、チュッチュゥ」


 顔を離すと、唾液の橋が二人の間にできる。


「シたくなったのか?」

「うん♡ 結くんに胸を触られて、スイッチ入っちゃった♡ シよ?」

「仕方ないな」


 と言っている俺も、下の準備はとっくにできていた。我ながらなんて単純なんだと思いつつも、欲に逆らうこと無く、お互いの体を弄り合い、一つになった。

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