第3話 異変

 ここまで長々と京との出会いを話したわけだが、ここからが例の恋人でいるための契約の話になる。


 ラインを交換した後、ちょくちょくと京からラインが来ることがあり、それに返事したり、大学でもたまたま・・・・同じ講義を受けることがあれば、一緒に受けたりと、俗に言う友達として仲良くしていた。


 だが、過ごしていくうちに、少し変化……いや、異変が起きるようになった。

 身近なことからあげれば、ラインだ。

 一日に十通ぐらいしかこなかった京のラインが、日に日に増えていき、放置していたら三十通以上来ていたりした。

 ラインの内容も、軽い雑談や講義や大学のことばかりだったのが、俺のことばかりになったり。

 休日など俺はあまりスマホを見ない(小説はパソコンでする)ため、ラインが来ていてもすぐ返せなかったりすると、変な勘違いした京が、


『ごめんね、流石に送り過ぎだよね、ごめんね。私、こんな風に誰かと仲良くなるのは初めてだから、つい送り過ぎちゃうんだ、ごめんなさい。

 返すの面倒だったら、明日とか明後日とか一週間後でもいいからね。それに、私からのラインがウザかったら通知オフにしてくれもいいし、それでもウザかったら、ブロックしてくれてもいいからね。さいあく、消してくれてもいいからね。でも、またいつか交換してくれたら嬉しいな。

 少しの間でも、友達と沢山お話できて楽しかったです。

 また、ごめんね。こんな、長文読むの面倒だよね。私が勝手に送っているだけだから、読まなくてもいいからね。



 返信、何時までも待ってるからね♡』


 と言ったラインが送られることもしばしばだ。

 他にも例をあげるなら、朝や昼前大学に行こうと家を出ると、なぜか京がいたりする。


「九野さん……」

「あ、むすぶ君、おはよう」

「おは……よう。えーっと、どうしたの?」

「一緒に行こうかなって思って、待ってたの」

「そうなんだ。来るなら、ラインしてくれたらよかったのに」

「それだと、なんな急かしちゃうかなって思って。私が勝手に待ってただけだから、気にしないで」

「う、うん」


 と言った感じに、家の場所を教えてもないはずなのに、家の前で待ってたりするのだ。

 流石の長年ボッチを拗らせている俺でも、これは友達の域を超え掛けていることに気付いている。


 このまま一緒にいれば、俺にとっても京にとっても、良くない気がし、俺は少し距離を取ることにした。

 そのはずなのに、何故か毎回受ける講義は一緒で、家を出る時間をズラしても、必ず家の前で待っていたり、しまいには手作り弁当を作ってきたりだ。


「学食もいいけど、毎日それじゃ栄養が偏っちゃうから、お弁当作ってきたの。前聞いたのを参考に、栄養あるものと結君の好きおかず入れてみたの」

「…………」

「ん? どうしたの? もしかして、いらなかった。そうだよね、ごめんね。勝手にこんなことされても困るよね、ごめんね。ちょっと待っててね、これ捨てて、すぐ学食買ってくるね」

「あ、いや、ちょっと待って! 違う……違うから!」

「違う?」

「えっと、ほら、弁当作ってきてくれたり、美味しそうだったり、(色んな意味で)びっくりして声が出なかっただけだから。いらないとかじゃないから!」

「ほんと?」

「ほんとほんと」

「そう? えへへ、よかった」

「えっと、じゃあ、早速食べていい」

「うん! 気持ち込めて作ったからね♡」

「そう……なんだ、ありがとう」


 それから、俺はほぼ毎日、京の手作り弁当を食べることとなった。

 良くも悪くも、弁当の味は嘘なく美味しかった。


 と言った通り、この数日の間で一気に距離を縮めて京だったが、おかしな関係になったのは、やや強引に俺の部屋に遊びに来た時だ。


「ここがむすぶ君の部屋かぁ〜」

「普通の部屋だろ」


 興味津々と言った風に、机を見たり、本棚を見たりと部屋中をグルリと見て回る京。

 何が面白いのか、京は見るもの一つ一つに興味を持っていた。

 俺の部屋にあるものなんて、大学の教科書やノート、あとは漫画にラノベ、あとは誰の部屋にもありそうなモノばかりだ。

 一通り見て回った京は、なぜか俺の布団に頭だけ潜らせている。


「何してるんだ」

「えへへ、結君の匂いがするぅ〜」

「なんかやめてくれ。別にいい匂いじゃないだろう」

「そんなことないよ。結君の匂いは安心する匂いだよ」

「気のせいだよ。そろそろ出てくれ」

「はぁーい。残念、もうちょっと嗅ぎたかったのに」


 しつこく、俺の部屋に来たいと言うから、仕方なく連れてきたけど、やっぱりやめておいた方がよかったか。

 普通、こういう時、男の一人暮らしの部屋に来たら、女の子の方が警戒するはずなのに、なぜか今は俺が警戒している。


「結局、なんで俺の部屋に来たかったわけ?」

「興味があったのと、大事な話があったから」

「大事な話?」


 なんだろうか。大学を辞めることになったとか? 一旦距離を置こうとか? それなら、俺も賛成だけど。


「うん。改めて言うのも恥ずかしいけど、もしかしたら、薄々結君は気付いているかも知れないけど、ちゃんと言うね?」

「う、うん」


 なぜか、京は少し顔を赤らめ、モジモジとしている。

 俺の眼を見ようとしても、すぐに逸らしてしまったり、一歩近付こうとしても逆に下がってしまったりと、いつも良く分からない行動をするが、今日のはより一層分からない。

 京は、薄々俺が気付いているかもと言ったが、行動がヤバいということ以外、何も思い当たらない。


「すーはー。すーはー」


 京は、深呼吸し、覚悟を決めたように、口を開いた。


「私は、あなたが……田目結君のことを愛しています! 私の彼氏になって下さい!!」

「え……えぇぇぇ!?」

「きゃっ! 大好きって言うつもりが、好きな思いが溢れ過ぎて、愛してるって言っちゃった!」


 耳まで赤くした京は、両手で顔を隠しながら、クネクネとしている。

 いや、そんなことよりも、今のって、誰が聞いても……告白だよな。

 京って、俺のこと……好きだったんだ。全く気付かなかった。

 いや、思い返して見れば、そんなアピールをしているような行動はあった……気もしなくもない。


 一緒に大学に行くために家の前で待っていたり、突然手作り弁当を作ってきたり、俺に嫌われないように控えめにしようとしてできてなかったり――あれって、好きからくる行動だったのか。


 それにしては、少々過激と言うか……重くないか?

 恋的な意味で、人に好きになられたことがないから良く分からないが、ああいうものなのか。

 恋は盲目と言うけど、みんなああなるのか?

 世間がどうか分からないけど、これは返事しないとだよな。

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