君のおかげで
俺が見たいのは、そんな表情じゃない……。そんな表情、しないでくれよ……。そんな表情をされたら、俺……なんだか悪いことをした気分になるじゃないか。初めてだ……こんな寂しそうな表情をする彼女を見たのは。今まで俺は彼女の笑顔をたくさん見てきた。……人間だもんな。感情があるのは当然のことだ。
俺は、寂しそうな表情をしている彼女の手を握る。手を握られた彼女は、俺の顔を見つめながら口を開いた。
「不知火くん……」
「ありさちゃんの気持ちを全て分かろうとしても無理があるけどさぁ……君がそんな表情をしているのに、何もしないわけにはいかないよ。俺は、とある人に出会ってから人生が変わった」
俺は眼帯おじさんの言葉を思い出す。
『人生と言うハードゲームを楽しく攻略してみぃ! お前なら……俺は出来ると信じとる!!』
俺は口角を上げて、微笑みながら言葉を続ける。
「俺は、ありさちゃんに何度も救われた。ありさちゃんのファンになってから人生が楽しくなり、ありさちゃんのことを一日考えて、本人の前で言うのがとっても恥ずかしいけど……ありさちゃんと色々しているのを妄想した。俺の頭の中は、ありさちゃんのことでいっぱいなんだ。毎日、ありさちゃんのことを思ってる。ありさちゃんのファンになってから今もだよ。話が少し脱線したから戻すけど、俺はこのまま君を家に帰らせたりはしない」
「えッ……」
「ありさちゃんが笑顔に戻るまで、俺はありさちゃんと一緒に居るッ!」
「不知火くん……」
俺は妹のメッセージが映されたスマホの画面を彼女に見せる。
「これは……?」
「実は……俺もこの後、一人で飯を食べる予定だったんだ」
「えっ……。そうなの!?」
俺は笑みを浮かべて頭を掻きながら口を開く。
「だからさぁ、提案なんだけど……この後、飯食べに行かない? あっ、そうだそうだ。忘れかけてたけど……今度は俺が奢るよ!」
「…………うん。行こう」
俺たちはまるでカップルのように、近い距離で歩き出す。
「ありさちゃんが食べたいものでいいよ」
「不知火くんは食べたいものないの?」
「今は思い浮かばないから、いいよ。ありさちゃんが決めて」
「ありがとう……」
俺たちは会話をしながら歩き続けるのだった。
☆★☆★
私は彼のことが本気で大大大好きだ。今こうして彼と、まるでカップルのように近い距離で歩いているだけで、心臓の鼓動が早くなっている。ハグやキスをしたら、私の心臓は止まってしまうのではないかと思ってしまう。
私は彼と歩きながら、彼の言った言葉を思い出す。
『ありさちゃんが笑顔に戻るまで、俺はありさちゃんと一緒に居るッ!』
まるでプロポーズをされたような感覚だった。私は彼の言葉を聞いて、改めて彼が人思いで優しい男性……そして、運命の人だと感じた。私のタイプは思いやりがあって、顔ではなく言葉や行動がカッコいい人。私のタイプの男性と彼は一致しているのだ。だから、運命の人になる。あー! もう、彼のことが好きすぎて抱きつきたい! キスをしたい! 彼さえよければ、その……気持ちよくなることをしたいッ!
私は息を荒げ、顔を赤くしながら興奮する。
「し……不知火くん」
「顔が真っ赤だけど……もしかして熱があるのか?」
「違う違う違う! 熱はないし、その……顔が赤いのは気にしないで!」
「……分かった」
「それでだけど、私……中華料理が食べたい!」
そう言うと、彼は微笑みながら私の顔を見つめる。
「近くの中華料理屋探そっか」
そう言った彼は、スマホで近くの中華料理屋を調べてくれている。私はそんな彼を見つめながら内心思う。彼の使っているスマホもブラックでカッコいいし、スマホをいじってる彼もカッコいい! 私のために中華料理屋をスマホで探してくれているところで、彼の優しさが出ているわ! それに……彼は女の子の前だからといって、カッコつけたりしないのよね。もうほんとッ最高の男性!! 結婚したぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!
彼はスマホの画面を見ながら、口を開く。
「ここから400メートル先に中華料理屋があるみたい」
「じゃあそこに行こッ!」
「評判も悪くないみたいだから、多分大丈夫だと思う。もし口に合わない料理だったときは、ごめん」
私は首を横に振る。
「ううん、不知火くんは何も悪くないよ」
私は首を横に振るのをやめて、彼のことを見つめながら言葉を続ける。
「本当にありがとう。私のために尽くしてくれて……」
そう言うと、彼は口角をあげながら口を開く。
「当たり前のことをしただけだよ……」
私は彼の言葉と表情にメロメロになってしまう。ずるすぎるッ! その表情で、当たり前のことをしただけだよ……な~んて言われたら、もっと更に好きになるに決まってるじゃない! 彼への好きゲージは、マックスを超えているんじゃないかしら? ……絶対に超えているに決まっているわ!
「それじゃあ、向かおうか」
「うん」
私は頬を赤らめながら、運命の人と中華料理屋へ向かうのだった。
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