寂寥

 映画館の中に入った俺たちは、『恋愛ドロップス』のチケットを購入した。


「飲み物とか、ポップコーン買う?」


 俺がそう尋ねると、彼女は笑みを浮かべながら首を縦に振った。


「うん!」


 どんなフードがあるのか気になるので、俺たちはメニュー表を見る。まず、飲み物は炭酸や紅茶、クラムチャウダーやコンポタージュがある。前から思っていたけど、コンポタージュやクラムチャウダーは飲み物と言って正しいのだろうか? 飲み物の定義がいまいちよく分からない。食べ物は、ポップコーンやホットドッグ……チュロスにホットサンドなどがある。あまり食べすぎると夕飯が食べれないからなぁ……つうか、妹から連絡ないけど、今日の夕飯はなんなんだ? …………まあいいか。


「ありさちゃんは何が食べたい?」

「私は……」


 彼女はメニュー表をじーッと見つめている。


「ポップコーンとアイスティーにしようかな」

「りょーかい」


 そう言って俺は、ポップコーンと飲み物を買いにレジに向かおうとしたのだが……。


「待ってッ!」


 彼女に腕を掴まれた俺は、彼女の方を振り向く。


「ありさちゃん?」

「不知火くん、もしかして支払おうとしてる?」


 俺は彼女の質問に首を傾げる。


「ん? だって、支払わないと買えないよ」

「そういうことじゃなくて……奢ろうとしてない?」


 俺は彼女に言われて気づいた。確かに、俺は無意識に彼女が食べたいと言ってる物を買おうとしてた。だけど……それって悪いことではないからいいんじゃねぇか? 奢ったって……。あッ! そうだったそうだった。忘れてたけど、奢られて申し訳ないと思う人もいるってニュース番組で報道してたな。彼女は奢られて申し訳ないと思っているのか?


「奢っちゃダメかな?」

「ダメと言うか……申し訳ない気持ちになるから……」


 やっぱりそうか……俺の考えが見事に的中したな。奢られて申し訳ないと思ってしまう気持ちも分からなくもないが……。あー、そうだなぁ……だったらこうするか。


「じゃあさ、今度何か買うときはありさちゃんが奢ってよ。そうすれば、お互い奢ったから申し訳ない気持ちにならないでしょ?」

「それなら今、私が先に不知火くんに奢りたいッ!」

「えッ……。まあ、別にいいけど……」

「不知火くんは何にするの?」

「じゃあ……アイスティーで」

「分かった! 買ってくるね!」


 そう言って彼女は、商品を購入しにレジへと行ってしまった。俺はそんな彼女を見ながら内心思う。予想もしてなかった展開になったけど……まあいっか。今度、彼女に奢ればいいわけだし……。


 トレーの上に乗っている、ポップコーンや飲み物を手に持って、彼女が俺の元へと戻ってきた。


「そろそろ上映始まるから、劇場の中に入って席に座ろう!」

「あっ……うん……」


 なんというか……学校での彼女の態度と、俺といるときの彼女の態度が180度変わっていて唖然としてしまう。まあ、アイドルも人間だから表と裏の顔があるよな。


 劇場の中に入り、席に座ると……彼女はアイスティーの入ったカップを渡してきた。


「はい、どうぞ」

「ありがとう」

「一緒に食べよッ! ポップコーン!」

「…………」


 俺は笑顔を浮かべている彼女のことを見つめながら内心思う。似合うなぁ……やっぱり彼女は笑顔が一番似合う。笑顔を浮かべている彼女のことを抱きしめてあげたい……そう思ってしまうほど、俺は彼女に惚れすぎているんだ。だけど、そんなことしたら彼女に嫌われるかもしれない……いや、その前に驚くだろうな。驚いて、嫌われて、友達をやめられてしまう。彼女と友達でこうやって一緒に居られるだけ幸せだと思え! 不知火羅一!


 俺は頬をビシッと叩くと、ポップコーンを食べている彼女のことを再度見つめる。


「ん? どうかした?」

「……いやぁ~、なんでもないよ」


 俺はキャラメル味のポップコーンを手に取って食べる。


「うまッ!」

「美味しいよね! ここのポップコーン!」

「ああ!」


 それからしばらくして、恋愛ドロップスの上映が始まった。


 恋愛ドロップスのエンドロールが流れている。内容としては、高校生のカップルが妊娠をしてしまい、親に出産を反対されながらも出産をして、若い年齢で赤ちゃんを育てていく……と言ったものだった。一言で表すなら、『感動』だな。感動する素晴らしい映画だったと賞賛したい。


 そんなことを思っているうちにエンドロールが終わり、劇場内は電気が点いて、観客は次々と劇場を後にする。


「俺たちも出ようか」

「そうだね」


 俺たちは劇場内を後にして、映画館から出る。スマホで時刻を確認すると、時刻は18時を過ぎており、妹からメッセージが送られてきていた。


『居残り練習してから帰るから遅くなる。適当にご飯食べて』


 俺は妹のメッセージを見つめながら呟く。


「適当に……ねぇ……」


 今日も妹の手料理を食べなくて済むのは、ありがたいけど……適当にと言っても何を食べればいいか分からねぇ……。カップ麵やコンビニ飯は食べたくないからなぁ……。どうしたものか……。


「不知火くん、夕飯はおうちで食べるよね?」

「どうしてそんなこと聞くんだ?」

「その~……私、今日は一人だから……。お母さんとお父さんが家に帰ってこない日なんだ」


 そう言って彼女は、寂しそうな表情を俺に見せるのだった。

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