バレないように
午前の授業が終わり、昼休みになった。とうとうこの時が来たか……と、俺は気を引き締めて席から立ち上がる。深呼吸をして、蓮夜の元へ向かい……声をかける。
「行こうぜ」
「おう!」
蓮夜は笑顔で答えると、頭の後ろで手を組みながら口を開く。
「お前が鶴瀬さんと飯を食うまで仲がいいとはなぁ……なんか意外だぜ」
「そ……そうかぁ?」
さすがに学力の低いスポーツバカの蓮夜でも、俺とありさちゃんが仲がいいのは意外だと思うよなぁ……。
俺たちは彼女の席に向かって、彼女に声をかける。
「それじゃあ、行こうか」
「うん」
「珍しい組み合わせだよな、俺たち!」
「そ……そうだな」
本当に蓮夜が対策の鍵を握る人物で合っているのだろうか? 俺は違うような気がするが……。逆に蓮夜を誘ったことで状況がややこしくならないだろうか? 俺はそこが心配だ。彼女は自信満々な表情で、俺にナイスとメッセージを送ってきたけど……。そう言えば俺、学食を食べるのは2回目か3回目だな。学食を食べるより、菓子パンを買って食べたほうが安上がりだからなぁ……。
すると、蓮夜は笑顔で彼女に話しかける。
「学食食べに行こうぜ! 鶴織さん!」
彼女は席から立ち上がる。
「何度も言いますが、私の苗字は鶴織じゃなくて、鶴瀬です」
蓮夜は頭を掻きながら、笑顔で謝る。
「ごめんごめん! 俺バカだからさ、人の名前よく間違えちまうんだよ! アハハハハッ……!」
「自覚があるんですね。それと、笑い事ではありませんよ」
「アハハハ……」
俺は苦笑いをしながら、会話をしている二人を見て内心思う。この二人、相性がいいのか悪いのか分からねぇ……。喧嘩……というより、蓮夜が彼女のことを怒らせるようなことを言わなければいいけど……やりかねないからなぁ、このスポーツバカは。
「んじゃ行こうぜ! 学食食べに食堂へ!」
そう言うと、蓮夜は笑顔でウキウキしながら教室を出て、食堂へ向かおうとする。俺と彼女は蓮夜に続くように歩いて食堂へと向かった。
食堂に着いた俺たちは、何を食べるかメニュー表を見ていた。
「鶴織さんはどれにする?」
「そろそろキレてもいいですか? 不知火くん」
「おちょっくているわけではないんだ。だから、許してやってくれ……頼む」
彼女は大きなため息をつきながら、学食のメニュー表に目を向ける。やっぱり蓮夜を誘ったのは、間違いだったんじゃないかと思う俺。だって、そうだろ!? 彼女は今にも蓮夜に怒りそうな態度をとってるし! 何が対策できる人だよ!? 全て裏目に出てねぇか!?
すると、彼女はメニュー表を見ながら口を開いた。
「私はチーズたっぷりグラタンにする」
続いて、蓮夜がメニュー表を指さしながら口を開く。
「俺はタレカツ丼と海老天そばのセット!」
「じゃあ俺は……」
俺はメニュー表を見ながら、何を食べようか考える。初めて学食を食べる人はカレーを頼む人が多いけど、カレーを食べたい気分じゃないんだよなぁ……。しかも俺、別に今回が初めての学食じゃないし。甘辛からあげ丼にきつねうどん……ドリアにラーメン……バラエティが豊富で何を食べようか迷うなぁ……。うーん……よし、決めた!
俺たちは注文して、トレーの上に置かれている商品を手に持ち、空いている席に座る。
「よっこらしょ」
「早く食おうぜ!」
「ふぅ……」
結局、俺が頼んだのは……野菜たっぷりタンメンだ。どうしてタンメンにしたかって? 家だと野菜をほとんど食べないから、野菜を摂取する目的でタンメンを頼んだ。メニュー表に書かれていたが、タンメンの上に乗っている野菜のグラム数は400グラムだそうだ。値段は450円。これだけの野菜を摂取できて、450円は安いのではないだろうか? 今は物価が高騰しているし……。
俺たちは手を合わせて「いただきます」をすると、食事を始める。蓮夜は海老天そばをズルズルとすすっており、彼女は湯気が出ているグラタンをフォークで食べている。俺はそんな二人の様子を見た後に、タンメンに口を付けた。盛られている野菜を食べないと麺にたどり着かないので、野菜をひたすら食べる。
すると、箸を持ちながら蓮夜が口を開いた。
「羅一と鶴織さんってさ……どういう関係なの?」
野菜を咀嚼して飲み込んだ俺は、蓮夜の質問に返答する。
「友達だよ。話したり一緒に飯――ゴホン! とにかく、話すだけの友達だ!」
「不知火くんの言う通り、私たちはただの友達よ。決して、一緒にクレープを食べたり、タピオカミルクティーを飲んだりするような仲じゃないわ」
おいおい! ありさちゃん!? 今、余計なこと言ったよね!? クレープを食べたり、タピオカミルクティーを飲んだりする仲じゃないわって、話すだけの友達はそんなこと絶対に言わないからッ! どうしよう……今ので蓮夜に、俺たちの関係が話すだけの友達じゃないってバレたら……!
「へぇー、そうなんだ」
海老天そばを食べながらそういう蓮夜。良かったぁ……バレてないッ! 俺は安心な表情を浮かべる。蓮夜、お前がスポーツバカで本当に助かったよ。感謝する。それはそれとして……一番の爆弾は、ありさちゃんじゃん! 俺たちの関係をふつーうに言っちゃってるし!
その後はたわいもない会話をし、蓮夜に俺たちの関係がバレることはなかったのだった。
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