メッセージ
翌日、俺はあくびをして眠たい目をこすりながら学校の教室に入る。すると、俺よりも先にありさちゃんは席に座ってスマホをいじっていた。昨日、一昨日は俺の方が早く教室に着いていたのに……。まあ、そんなことはどうでもいっか。俺は……今日も推しの姿が見れて幸せだッ! クラスの奴ら……と言うより、この学校の奴らは先生も含めて気づいていないだろう。俺だけが知っている、彼女の禁断の秘密。
俺は自分の席に座ると、スマホをいじっている彼女に挨拶をする。
「おはよう、鶴瀬さん」
彼女はスマホから俺の方へ視線を移して、挨拶を返す。
「お……おはよう」
俺はふぅーと息をつくと、彼女と同じようにズボンのポケットからスマホを取り出して、いじり始める。しばらくすると、彼女が席を立って……スマホを持って、俺の目の前に立った。えッ……何何何? スマホを持ちながら棒立ちされるとリアクションに困るんだけど……。俺はどんな表情で声をかければいいんだ?
「えーと……どうかした?」
「その……えっと……」
彼女はなぜか顔を真っ赤にしている。まるでオシッコを我慢しているときの俺のようだ。蓮夜にそのことを話したら、共感できねぇ……と言いながらゲラゲラと笑われたけどな。今思えば、アイツに話したのが間違いだったし、誰かに話すような内容じゃねぇよな。
すると、彼女は俺の耳元で囁く。
「レインを交換してほしいの」
レインとは……メッセージをやり取り出来たり、電話を無料で使えたりできるちょー便利なアプリだ。ちなみに昨日、俺は妹とレインでメッセージのやり取りをしていた。
「別にいいけど……」
そう言うと、彼女は微笑みながらQRコードをスマホの画面に映して見せてきたので、俺は彼女のスマホに映っているQRコードを読み取って友達追加をした。
「これでよしっと……」
すると、早速彼女からレインでメッセージが送られてきた。目の前にいるから普通に話せばいいのに……。あっ! もしかして俺以外には聞かれたくないことなのか!? そうか……そういうことなら仕方ないな。
俺は彼女から送られてきたメッセージを見る。
『よろしく!』
俺は席から立ちながら、彼女に向かって口を開く。
「ただそれかよッ!」
すると、彼女はハッとした表情をしてスマホをポチポチして――追加でメッセージが送られてきた。
『昼休み、一緒に学食を食べませんか?』
送られてきたメッセージを見ながら、俺は内心思う。学食かぁ……。財布の中にいくら入ってたっけ? 確か……1000円札が一枚入っていたような気がする。一応確認しておくか。
俺はバッグの中から財布を取り出して、いくら入っているのかを確かめる。
「1000円札が一枚と……ん? どうしてこんなに100円玉が入ってるんだ?」
俺の財布の中には、おそらく50枚以上はあるであろう、100円玉が入っていた。俺は困惑しながらも、財布の中を見ていると……文字の書かれた小さなメモ用紙が入っていた。
「なんだこれ?」
俺は財布の中から文字の書かれた小さなメモ用紙を取り出して、確認する。
『仕事が忙しくて、母さんも父さんも羅一たちと会話をしてあげれなくてごめんな。札束がなくて100円玉になっちゃうけど、今月のお小遣いを入れておいたよ。大事に使えよ。父さんより』
この手紙を読んで、母さんも多分、俺たちのことを心配してくれているだろうし……父さんが俺たちのことをとっても心配してくれてるのは分かるけどさぁ……札束がないからって100円玉を50枚以上も息子の財布に入れるか!? 普通、逆だろ! 札束が多くて小銭が少ないんじゃないのか!?
俺は大きくため息をつく。
まあいいや……。大事に使わせてもらうよ、父さん。
俺は彼女にメッセージで返信をする。
『二人で学食を食べている姿を他の奴らに見られて、変な噂が流れないかな?』
『変な噂って?』
『あの二人、実は付き合ってるんじゃないか? とか』
『そのことを考えてなかった。けど、それなら対策できる人がいるわ』
『対策できる人って誰だ?』
『不知火くんの友達よ』
『まさか……蓮夜のことか?』
『おバ……彼がいれば三人になるから安心よ』
『確かにそうだけど……。OK りょーかいした』
彼女の方を向くと、彼女は親指を立ててグッドサインをしてきた。その表情は、全て対策済み! これで完璧よ! と言わんばかりの自信満々の表情をしている。
彼女は自分の席に戻って、スマホをいじっている。
俺はそんな彼女を見ながら、内心思う。本当に
そんなことを思っていると、蓮夜が教室に入ってきたので声をかける。
「おはよッ、蓮夜。そのー、頼みというか誘いというか……昼休み、俺と鶴瀬さんとお前で学食食べないか?」
蓮夜は頭を掻くと……いつもの表情(笑顔)で、親指を立てて口を開く。
「もちろんいいぜ! てか、お前が俺に飯の誘いをするなんて珍しいな」
「ハハハッ……。そうかぁ……?」
「昼休み、楽しみにしてるわ!」
「お……おう」
蓮夜は自分の席へと向かっていく。俺が大きなため息をつくと、スマホが振動する。どうやらメッセージが送られてきたようだ。ズボンのポケットからスマホを取り出して、メッセージを確認すると……彼女から一言。
『ナイス』
俺は朝から無駄に気力を使ってしまったのだった。
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