白夢

 時刻は17時30分を過ぎ、タピオカミルクティーを飲み終えた俺たちは駅で別れた。俺はズボンのポケットに手を入れながら制服姿で、電車に揺られながら座席に座ってスマホをいじっている。スマホで何をしているかって? 妹とメッセージでやり取りをしているのだ。


『今電車に乗って帰宅中』

『お兄、また友達と遊んでたの?』

『まあ、そんなところ』

『ふーん。今日はコンビニ弁当だからね』

『りょーかい』


 俺は妹とのメッセージのやり取りを終えて、スマホをズボンのポケットにしまうと……ガッツポーズをした。よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!! 今日はちょー味の薄い病院食以下の拷問飯を食べなくて済むぜッ!! 玲愛が俺のために飯を作ってくれるのはありがたいんだけど……妹よ。ありがた迷惑という言葉がこの世にあるのを知っているか? 善の行いをしているかもしれないが、その行いが裏目に出て相手から迷惑だと思われることだ。


 俺は満面の笑みで機嫌よく、座席に座りながら目を閉じる。いや~、危ない危ない。妹の手料理を食べたら、せっかく飲んだタピオカミルクティーをリバースするところだった。妹の手料理を初めて食べた時は、食べ終わった後に気持ち悪くなってトイレで吐いたからな~。トラウマなんだよ……妹の手料理。どうしてあんなに不味い料理が作れるのか聞いてみたいけど……聞いたらどうなるかは分かっているから聞かない。まあ、まず無事でいられないだろうな~。


 俺は目を閉じながら、小さな声で呟く。


「そんなことより……」


 今日も最高の一日だったなぁ! ありさちゃんの手作り弁当を食べて、ありさちゃんと一緒にタピオカミルクティーを飲めた! 俺はなんて幸せ者なんだッ! 今日は彼女にハグをされなかったけど……そんなことはどうでもいいぐらい、俺は今日……彼女と楽しい時間を過ごせた。彼女も笑顔でタピオカミルクティーを飲んでいたし、お互い楽しく過ごせたと思う。まあ、彼女が俺のことを恋愛として好きなのかと聞かれたら……おそらく、好きではないだろうけど……。だけど、今後も俺は彼女を推すし、恋愛として大大大好きだ!


『まもなく川原駅に到着します。お荷物などお忘れしないよう、ご注意ください』


 俺は車内のアナウンスを聞いて、小さな声で呟く。


「もう着いたのか……」


 電車は川原駅のホームに停車し、扉が開く。俺は電車を降りると……駅の改札口を通って徒歩で自宅まで向かう。時刻は18時になろうとしており、すっかり外は暗くなっている。俺はズボンのポケットに手を入れて、夜道を一人で歩く。


「もう秋だからなぁ……。肌寒ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ……!」


 しばらく歩いていると、公園の敷地内に設置されている自動販売機が目についた。


「自販機……寒ぃから何か温かい飲み物でも飲むか」


 俺は自動販売機の前に立ち、どの飲み物を購入するか考える。温かい飲み物で売られているのは、缶コーヒーや250ミリリットルのミルクティー、缶に入っているコンポタージュやおしるこなどだ。ミルクティーはさっき飲んだから飲みたくないし、おしるこは甘すぎて好きではない。コンポタージュは体が温かくはなるが、喉は潤わない。となると、消去法で缶コーヒーになるな。コーヒーがとっても飲みたいわけではないが、飲めるものがないので仕方ない。


 俺は小銭を自販機に入れて、缶コーヒーを購入する。自販機から出てきた缶コーヒーを手に持つと、公園に設置されているベンチに座って、缶コーヒーの蓋を開ける。そして、コーヒーを一口飲む。


「あったけぇ……。そう言えば、ありさちゃんにハグされた時も暖かかったなぁ……ほんの一瞬の出来事だったけど……」


 俺は缶コーヒーを手に持ちながら、目の前にある滑り台を見つめる。夜の公園が不気味だと思うのは、俺だけだろうか? 遊具一つ一つが不気味に見えて恐怖を感じる。幽霊がいるんじゃないかと思わせる。実際は、ここの公園にはないと思うけど……幽霊。いや……いないと信じたい。


「こんな時間にコーヒーなんか飲んで、今日の夜眠れるか心配だな……。カフェインが入ってるからなぁ……。心配なのは、ありさちゃんとの関係か……」


 彼女と一緒に居られるのは1年と少ししかない。高校を卒業するまでに俺にできることはあるのか? 例えば、彼女に告白をするとか……いや、それはなしだな。告白する前から答えは分かっている。彼女に告白したところで失恋するのが、ちょーありえる。冴えない顔をしてるモブの俺なんかと、アイドル活動をしてる彼女が釣り合うはずがねぇ……。


 俺は大きくため息をつくと、コーヒーを一気に飲み干す。


「ありさちゃんは俺のことを友達としか思っていないんだろうなぁ……」


 そう呟くと、俺は空のコーヒーが入っていた缶をごみ箱に捨てて、ズボンのポケットに手を入れる。


「いつまで夢を見てんだよ……俺」


 そう呟くと、俺は公園を後にしたのだった。

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