運命の人
俺たちは駅近のタピオカ専門店に着いたわけだが……案の定、カップルや女子高生集団で長蛇の列を作っていた。1時間近く……いや、それ以上並んで待つことになるのではないかと思う俺だが、なぜか下を向いているありさちゃんに声をかける。
「どうしたの?」
すると、彼女はハッとした表情をし、俺の方を向いて笑顔で口を開く。
「なんでもないよ! 並ぼっか!」
「う……うん」
今日の彼女は、昨日とは何か違うような気がするが……俺がそう思っているだけか? ……あまり深く考えるのはやめよう。彼女本人がなんでもないと言っているのだから、きっとなんでもないのだろう。
俺たちは長蛇の列の最後尾に並び、待つこと約1時間……ようやく念願のタピオカミルクティーを購入することができた。銃撃戦ゲームで例えるならば、ここのエリアは激戦区だな。まさかこんなにも長時間、並ぶことになるとは思ってはいなかったけど……あれだけの長蛇の列ができていたら当然というべきか。
俺たちは巨大な木の下に設置されているベンチに座る。
「俺のために付き合わせちゃってごめんね」
すると、彼女は首を横に振りながら笑顔で答える。
「ううん、全然大丈夫だよ!」
「…………」
俺は彼女の顔を見つめると、手に持っているタピオカミルクティーのカップに視線を移して口を開く。
「それじゃあ、飲もうか……って言いたいところだけど、やっぱり気になるな」
俺は笑顔でいる彼女のことを鷹のような鋭い目つきで見て、言葉を続ける。
「ありさちゃんさぁ……その笑顔は本物?」
「えっ……本物って……」
俺は手に持っていたタピオカミルクティーのカップをベンチに置くと、タピオカミルクティーのカップを持っていない彼女の左手を両手で包む。
「確信はないけど……無理して笑顔で俺と話しているように見えるんだ」
「…………」
俺は彼女のことを見つめながら、微笑んで口を開く。
「そう見えるかもしれないって話で、全然違かったらごめん!」
☆★☆★
私は左手を不知火くんの両手で包まれながら、彼の言葉を聞いて……涙を流しそうになっていた。彼が私の笑顔が偽りだったと気づいてくれたわけでもなければ、彼が私の手を両手で包み込んでくれたわけでもない。私は……私自身の行動や思いに気づいて、涙を流しそうになっていた。どうして無理して私は、彼と話していたんだろう。どうして私は、彼との関係が継続できるのか不安になっていたのだろう。
――私の考えは一つの答えに導く。
彼との関係が継続できるかなんて考える必要はない。
彼のために偽りの笑顔をする必要はない。
彼のために無理をする必要もない。
私は――ありのままの私でこれから彼と関係を継続すればいいんだ。仮面を被った私は、今ここで居なくなる。それでいい……それでいいんだ。彼が私のために無理をしているようには見えない。彼はありのままでで言葉を発したり、行動を起こしたりしている。無理なんてしなくていいんだ。彼のためだからと言って……。さようなら、偽りの私……。
私は彼に表情が見えないように下を向きながら、口を開く。
「不知火くんは、私のすべてを知っているかのようだね」
「えっ……。それってどういう――」
私は彼の顔を笑みを浮かべながら見つめて、言葉を続ける。
「気づかせてくれてありがとう!!」
やっぱり私は、彼のことが大好きだ。彼の言動や、私のことを気にかけてくれる優しいところが大好きだ。彼が私のどこが好きなのかは知らないけど……私はこれからも、彼と一緒に楽しい思い出をたくさん作りたい。いつか、突然かもしれないけど……彼が居なくなってしまっても、後悔が残らないようにしたいと思ってる。もしくは、彼に彼女ができて私と関わらなくなってしまっても……いや、そういうことを考えるのやめて、今は彼と一緒に居るこの時間を楽しもう。
「ありさちゃん、気づかせてくれてありがとうって言うのは?」
私はありのままの笑顔で、彼に向かって口を開く。
「内緒! それよりも……早く飲もッ!」
「あっ……うん……」
私は笑みを浮かべながらタピオカミルクティーを飲む。モチモチとした黒糖の味がするタピオカが癖になって飲む手が止まらなくなる。ミルクティーも甘すぎず、ほどよい甘さだから飲んでいてくどくない。初めて飲んだけど……タピオカミルクティーが流行る理由が分かる気がする。
「不知火くんは美味しいと思う?」
「これは……うまいッ!! タピオカってこんな食感なんだ。ブヨブヨしてるって言えばいいのか……とにかくうまい! ミルクティーも甘すぎなくて飲んでいてくどくないし。これは癖になるな!」
「だよね! 私も同じこと思った! 癖になるよね、タピオカミルクティー!」
「うん!」
私は心の底から楽しいという感情が込み上げ、自然と笑みがこぼれてしまう。彼と会話をしながらタピオカミルクティーを飲む。私は今……とっても幸せだ! 転校してきて2日目なのに、こんなにも幸せを感じることになるなんて思ってもいなかった。きっと彼は……運命の人なのだろう。
私たちはタピオカミルクティーを夢中になって飲み進めるのであった。
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