偽りの笑顔

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 放課後になり、俺たちは学校の奴らに一緒に居るところを見られないよう、学校から少し離れた裏路地で集合した。その裏路地は、イケない薬物を売買していてもおかしくないような場所だが……そう思うのは俺だけだろうか? そんなことよりも……彼女はなぜかニコニコしている。何か嬉しいことがあったのだろうか? それとも、俺と一緒にタピオカミルクティーを買って飲むのが楽しみなのだろうか? …………いや、前者はありえるが、後者は絶対に違うな。彼女が俺と一緒に行動をして、心の底から楽しいと思うはずがない。楽しくはないとも思わず、凄く楽しいとも思わない。つまり、その中間だ。


「それじゃあ、行こうか……」

「うん」


 俺はズボンのポケットに手を入れ……俺たちは駅近のタピオカ専門店へと向かうのだった。


☆★☆★


 昨日はクレープを不知火くんと一緒に食べて幸せだったけど……まさか二日連続で彼と疑似デートができるなんてッ! 昨日は我慢できなくて彼にハグをしちゃったけど……今日はさすがに我慢しないと。彼が私のことが好きだからって、私が彼になんでもしてもいいなんて思っちゃダメよ! 私は彼に惚れてしまって、昨日は家に帰ってから徹夜で彼に似たぬいぐるみを作ってたけど……。おかげで寝不足だけど、いいの! 彼のためなら寝不足ぐらいどうってことないわ! 彼と集合する前に気持ち悪くなって、トイレで昼休みに食べた物を吐いてしまったけど……。アイドルだってゲロは吐くわ! ゲロを吐いたくらいで恐れていては前へ進めない。私は……アクセルベタ踏みで全速力で前進するって決めた!!


「どれぐらい並ぶかな?」


 私は彼の顔を見ながら、そう聞くと……彼は顎に手を置いて口を開いた。


「うーん。30分くらいだと思う。今タピオカがブームだし、学生が多いからなぁ……」

「そうだね。ミンスタを見てても、タピオカが作られる動画とかが流れてくるし……」

「どんな食感なんだろうなぁ? タピオカって」

「私も初タピオカだからどんな味がするのか気になってる」


 確かにタピオカがそんな食感でどんな味がするのか気にはなっているけど……そんなことよりも、彼と一緒にタピオカミルクティーを飲んで一緒に過ごせることが幸せだわ! 学校では席が隣同士だけど、あの蓮夜おバカと彼は話してるから、私と話せるのは昼休みのときだけ。私は、彼か自分が死ぬまで一生そばに居続けたい! 彼と付き合って……結婚して……幸せな家庭を築きたいとは思っているけど……彼が私のことをどれぐらい好きなのかが分からない。アイドルとしての西園寺ありさが好きなだけであって、女子高生としての鶴瀬有栖という人間に興味はないのかもしれない。


 だから、私は高校を卒業して彼と別れてから後悔をするのがとっても怖い。あの時、こうしておけばよかった。ああしておけば違うルートがあったんじゃないかって思ってしまうのではないか……。まだ1年以上も先のことだけど……言い換えれば、あと1年と少ししかない。どうすれば私は、後悔せずに済むのかしら……。


「黒糖の味がするらしいよ。……ん? ありさちゃん?」

「えッ……」


 私はいつの間にか下を向いて歩いてしまっていた。彼の顔を見つめながら、私は愛想よく言葉を続ける。


「へぇー、そうなんだ~! 楽しみだね! タピオカミルクティー飲むの!」

「う……うん」


 なぜか彼は頬を赤らめていた。……いや、夕日のせいで彼の顔が赤く見えるだけだろう。きっと、そうに違いない。あまり深く考えすぎると、頭がパンクしてしまうので深堀りはしない。


「一つ、聞いてもいいかな?」

「ん? 何?」

「不知火くんは……私のことどう思ってる?」


 聞くつもりはなかったけど、彼が私のことをどう思っているのかが気になりすぎて、思わず聞いてしまった~! どうしよう!? えッ……別になんとも思ってないけど。とか、何言ってんのって引かれたら! 私は彼に惚れてからどうかしちゃってる! 少し冷静になれ、私~!!


「どう思ってるって……そりゃあ……ごめん、今は言えない」

「言えない……か……」


 私のことを別に何とも思ってないし、何言ってるのコイツとかって思って言えないって言ったんだろうなぁ……。なんだろう……ものすごく心臓がギュッと苦しくなるような感覚は。


「ご……ごめんね! 変なこと聞いて」

「こちらこそごめん」

「不知火くんが謝ることないよ~!」


 私は愛想よく笑顔を作りながら、彼と話を続ける。


「俺に勇気があれば言えたんだけど……」

「気にしないで! 変なこと聞いた私が悪いし……」

「ごめん……。本当にごめん」


 そう言って彼は私に向けて頭を下げてきた。私は彼になんて悪いことをしてしまったのだろうと罪悪感に苛まわれ、心臓が更にギュッと苦しくなる。


「謝らないでよ!」


 彼は私の顔を見て驚いた表情をする。


「ありさ……ちゃん?」

「あっ……! その……不知火くんは何も悪くないんだからさ、これ以上謝らないで!」


 私は無理して笑顔を作り、彼に向かって言った。


「ありさちゃんがそこまで言うなら……」

「うん、ありがとう!」


 私は彼との関係を継続していけるのかが、とても不安になるのであった。

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