ハプニングイベント

 朝からハプニングイベントがあったが、なんとか学校に着いた俺は、自分の席に座って死にかけのような表情で机に顔をつけていた。


「マ~ジで死んだかと思った~」


 そんなことを呟くと、頭をバシッと強く叩かれて俺は後ろを振り向く。


「痛ッ……なんだ蓮夜か」


 蓮夜は俺の顔をしばらく見つめると、口を開いた。


「羅一の顔が……死んでいる!」


 俺は大きくため息をつくと……口を開く。


「お前はもう死んでいる……! みたいに言うなよ。色々あって疲れてんだよ、こちとら」


 すると、蓮夜は後ろで腕を組みながら口を開いた。


「何があったのかは聞かねぇが……まあ、困ったことがあったら俺に言えよ。少しは助けられるかもしれないからな」

「蓮夜……」


 俺は蓮夜の言葉を聞いて内心思う。蓮夜コイツが自分からそういうことを言う奴だとは思ってもなかったなぁ……。困ったことがあってもなんとかなるっしょ! で、済ませてしまう奴だと思っていたが……。


 俺はフッと口角を上げ、死にかけの表情から普段通りの表情に変わり、蓮夜に向けて言葉を放つ。


「すこ~しだけ頼りにしてる」

「そこは頼りにしてるぜ……だろ!」


 そう言って蓮夜は、俺の髪の毛をくしゃくしゃとしてくる。俺は嫌がることなく、微笑みながら内心思うのであった。


 頼りにしてるぜ、親友あいぼう……と。


 蓮夜は腹が痛いと言ってトイレに行ってしまい、俺は再び話す相手がいなくて一人になってしまったが……タイミングよく隣の席のありさちゃんが教室に入ってきた。ありさちゃんは自分の席に座ると……俺の方を向いて声をかけてきた。


「お……おはよう」


 身バレ防止のために彼女は眼鏡をかけている。昨日から思っていたが……眼鏡をかけている彼女も大人っぽくて素晴らしい。エロい雰囲気が漂っていると思うのは、俺だけかと思うが……とにかく素晴らしかった。


「おはよう」


 挨拶を返すと、彼女は俺から視線を逸らしてじっとしているので、今度は俺の方から彼女に話しかける。


「鶴瀬さん」


 彼女は名前を呼ばれて、俺の方を振り向く。俺は構うことなく言葉を続ける。


「昼休み、一緒に食べない?」


 昨日は彼女の方から誘ってきたので、今度は俺の方から昼飯を誘う。すると、彼女はバッグの中を漁り……弁当箱を見せてきたので、俺は困惑する。


「弁当箱……それがどうかしたの?」


 すると、彼女は立ち上がって、手に持っていた弁当箱を俺の机の上に置いた。


「えッ……」


 彼女は自分の席に座って、俺の顔を見つめながら口を開く。


「不知火くんのためにというか……その……なんというか……なんとなく作ってきたッ!!」


 なんとなくで弁当を作る人は居ないと思うけど……。


「そ……そっか。ありがとう」


 俺がお礼をすると……彼女は感情を隠しきれず、ニコニコしていた。よっぽど俺にお礼を言われて嬉しかったんだろうなぁ……。初めて見たわ……お礼を言われてこんなにもニッコ二コになる人……。


 すると、トイレから戻ってきた蓮夜は、俺の机の上に置いてある弁当箱を見て興味津々で話しかけてきた。


「羅一! お前いつも菓子パンなのに、今日は弁当なのか!?」


 うわぁー、めんどくせぇーと思いつつも、俺は鶴瀬さんが作ってくれた弁当だと言ったら、もっとめんどくさいことになると思ったので言葉を濁す。


「菓子パンに飽きたって言うのもあるし……その……なんというか……今日は弁当なんだよッ!!」


 我ながら誤魔化すのが下手くそだと思いつつ、蓮夜のことを見つめる。すると、蓮夜は普段通りの表情(白い歯を二ッと出しながら微笑んでいる)で口を開いてきた。


「まあ、確かにいつも菓子パンじゃ飽きるよなぁ……!」


 蓮夜は俺の肩をポンポンと軽く叩きながら言葉を続ける。


「分かるぜ、その気持ち。俺も3日間連続でカレーやおでんを食べると、さすがに飽きてきて食べたくなくなるからな!!」


 俺は苦笑いをしながら、口を開く。


「そ……そうだな……」

「おっ! もうすぐホームルーム始まるから、自分の席に戻るわ!」

「お……おう」


 そう言って蓮夜は、自分の席へと戻っていった。俺は大きくため息をつくと……彼女の方を向く。彼女は教科書やノートなどをバックから取り出していた。


 俺は正面を向きながら、小さな声で呟く。


「なんだか今日は、ヒヤヒヤする日だなぁ……」


 これ以上、ヒヤヒヤすることがないといいけど……。いや、これはフラグだな。そう思っていると、高確率でヒヤヒヤすることが起きるものだ。これ以上、ヒヤヒヤすることは起きないと思っておこう。じゃないと、頭がパニックになってしまいそうだ。


 俺は深呼吸をすると、大丈夫だと何回も自分言い聞かせた。それはそうとして――今日も彼女に会えて安心している自分がいた。突然、居なくなることだってありえないことじゃない。もしそうなったら、俺は色々と後悔をしてしまうだろう。いや……高校を卒業するときに、ああしておけばよかった、こうしておけばよかったと後悔をするんだ。時間の問題じゃないか。


 俺は彼女の顔を見つめながら、小さな声で呟いた。


「死ぬまでずっとそばにいてほしいよ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る