バ彼氏
翌朝、俺は学校に行くために支度をしていた。妹は部活があるため、先に家を出て行ってしまっている。朝食は粉末状のコーヒーにイチゴジャムを付けた食パン一枚だ。それらを5分ほどで食べ終えると、玄関で靴を履いて扉を開ける。扉の鍵を閉めたのを確認すると、俺は電車に乗るために駅へと小走りで向かうのだった。
「はぁ……はぁ……」
俺は荒い息をあげて両膝に手を置く。今日も遅刻せずに学校に着きそうだ。駅のホームで電車が来るのを待っていると、高校生カップルが隣に立ってきて俺と同じく電車が来るのを待っているようだった。なのだが――。
「ゆうくん、昨日は激しくヤったから私、腰が痛いよ~」
「あっちゃん、ごめんごめん。キモチよすぎてつい……」
「もう! ゆうくんたら! 今日もヤッてもいいけど……」
「マジ!? じゃあ今日もあっちゃん
「ダ~メ! 今日もゴムは付けてね!」
「えぇ……」
そんな会話を隣で聞いていた……というより、聞こえてしまった俺は内心思う。別にカップルが嫌いとかいうわけじゃないけど……うん。コイツらはちょーアホそうだし、早く別れてざまぁみろってなってほしいわ。公共の場で卑猥な話をして恥ずかしくないのか? どんな神経してんだ、コイツら……。
「気持ち
そう呟くと、隣に立っていた彼氏が俺の方を向いて話しかけてきた。
「今なんか言った? 言ったよなぁ! なんて言ったんだよ!」
結構小さな声で言ったはずだけど……うわぁー、ちょーダリぃ……。ここは適当に言って……いや、ちょっと待てよ。コイツらは俺にストレスを与えた。それなら俺もコイツらにストレスを与えてお互い様になるべきだろ。喧嘩はしたくねぇし、強くはねぇが……口喧嘩なら俺は強いぞ。
「公共の場で卑猥な話をして恥ずかしくないんですか~? あっ、恥ずかしいわけねぇか! だって、お前ら……カップルじゃなくて、バカップルだからなぁ!! 喧嘩腰で話しかけてきた
さすがにちょっと言い過ぎたかな? いやでもこれぐらい言わないと、俺に与えられたストレスは消滅しない。まあ、さすがに殴ってきたりはしてこないだろうし……口喧嘩で済むだろ。
バカップルの彼氏は額に青筋を浮かべて、鬼の形相のような表情で口を開いた。
「この野郎……てめぇ……誰に喧嘩売ってんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」
そう叫ぶと同時に、バカップルの彼氏は俺の顔面に向かって殴りかかってきた。
「えっ……」
そうなるとは思っていなかった俺は、迫りくる拳が来る中、内心焦りながら思う。やっぱり言い過ぎたか!? 言い過ぎたのか!? ヤ……ヤバい! いくらバカでも駅のホームという公共の場で暴力を振るなんて考えてもいなかった! どうするどうする!? どうすればいいんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!! 拳を受け止める? いやいや! 俺にそんな技術はないし、攻撃を躱せるかも分からねぇ! あっ、これ詰んだわ。俺は
顔面に拳が迫り……俺は目を閉じた。左腕と左足を骨折した次は、顔面骨折ですか? はいはい、そうですか。顔中、包帯グルグル巻きになるんだろうなぁ……。
そして――。
『グシャッ!!』
という大きな音が駅のホーム内で鳴った。
「…………はっ?」
目を開けた俺は、目の前の光景を見て愕然としてしまった。なぜなら……俺に殴りかかってきたバカップルの彼氏は白目をむき、鼻血を出して倒れているからだ。
「おい! あつこ! この男は誰だよ!」
「えっ……その……」
「二股してたんだな、この野郎!」
「ヒッ……!」
「ただじゃ済ませねぇからな!」
そう。会話を聞いてなんとなく理解したと思うが、俺が殴られる寸前にバカップルの彼女に二股をされていた彼氏が現れて……バカップルの彼氏がもう一人のバカップルの彼氏に思いっきり殴られて倒れたのだ。俺にとっては救世主だがな……バカップルの彼氏を殴って倒してくれたバ彼氏。
『まもなく一番線に電車がまいります。黄色い点字ブロックの後ろに下がってお待ちください』
俺は助かったぁ……と思い、すぐさまその場から離れて距離をとった。そして、電車が走ってきて駅のホームで停車し、扉が開いたので車内に乗り込む。
「ふぅ……」
俺は激しく鼓動を打っている心臓を落ち着かせるため、深呼吸を何度もする。
「落ち着いたな……。にしても……」
マジで危ないところだったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!! 殴られかけた時……あっ、これ終わったわって思ったし、バ彼氏が来なければ今頃、俺は……マジで顔面骨折してたかもしれねぇ。そう思うと、俺は背筋が凍りついた。
「もう二度と
自分で自分のことを反省して、謝る俺なのであった。
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