夕日と赤面
放課後、俺はありさちゃんと一緒に駅の近くにあるクレープ屋に向かって歩いていた。まさか推しと一緒にこうやって歩けるなんてなぁ……幸せだぁ~。
すると、彼女は俺の顔を見ながら話しかけてきた。
「不知火くんは……その~……彼女とかいるの?」
「はい!?」
まさかの質問に俺は思わず声を上げてしまった。クラス内では居ても居なくてもいいようなモブの立ち位置の俺に彼女がいるはずがない。稀にいるけどね! 全然目立ってない奴に彼女がいて、しかもその彼女がちょーが付くほど可愛いってことが!
俺は咳払いをして、彼女の方を向いて口を開く。
「いないけど……。恋愛には縁のない男だと思ってるし……」
「そう……なんだ……」
俺は彼女に笑顔を浮かべて、頭を掻きながら再度口を開いた。
「彼女が作れなくてもいいんだ。推しのありさちゃんが元気にライブで歌って踊っている姿を見れれば! それが俺の生きがいだからさ」
「不知火くん……」
このように彼女と居られるのは学校を卒業するまでだけど、俺にとっては贅沢だ。会いたいと思っていた人に出会えて、一緒に昼飯を食べ、こうやって一緒に歩いている。大袈裟かもしれないけど、今の俺はいつ死んでもいいと思っている。俺はまだ彼女と会って間もないけど、幸せを実感している。だから、彼女と別れる時が来ても……俺は――。
彼女の顔をよーく見ると、赤くなっているように見える。夕日のせいだろうか?
「顔、赤くなってるように見えるけど……」
「ナッ……! ゆ……夕日のせいかな!」
「そっか」
やっぱり夕日のせいだったか。彼女の顔が赤くなるようなことをしてないし……。だけど……夕日のせいで顔が赤くなってるありさちゃんも可愛かわうぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいい!!
真剣な表情でそんなことを思っている俺のことなどを気にせずに、彼女は口を開いた。
「し……不知火くんはクレープ好き?」
そう質問された俺は、顎に手を当てながら答える。
「好きってほどでもないけど……ありさちゃんと食べるクレープは別格だろうな!」
俺がそう言うと、彼女は目線を逸らしてしまった。どうかしたのか? 俺が尋ねようとすると、ブツブツと言っているのが聞こえるが、なんて言っているのかは分からない。何をブツブツと言っているのだろうか?
「どうしてこう……不知火くんは無意識に私のことを胸キュンさせてくるの!? 私のことを推してるだけのファンだと思っていたけど……やはり彼の言動は凄まじいわ(ブツブツと言っている)」
俺は彼女の肩をトントンと叩いて、彼女をこちらに振り向かせる。
「なんかブツブツ言ってたようだけど……」
すると、彼女は目を閉じながら大きな声でこう答える。
「なんでもないから気にしないで!」
「あッ……はい……」
なんでもないことは察した俺だったが、彼女にそれ以上聞く勇気はなかった。なにせ、彼女は本当に夕日のせいなのかは疑問だが、顔を先ほどよりも更に赤く染めていたからだ。
そんなことを話しているうちに、目的の駅近のクレープ屋へと着いた。クレープを注文するために女子高生の集団や高校生のカップルなどが並んでいる。
「ちょー並んでるね」
「私たちも早く並ぼう」
そう言って彼女は俺の腕を掴んで引っ張る。俺はこの時思った。あれ? 俺たちって傍から見たらカップルなのでは……と。まあ、そんなことはどうでもいっか。冴えない顔をしてる俺なんかがありさちゃんと付き合えるはずがないし、ありさちゃんが俺のことを好きになるはずがない。友達が上限だろう。
「不知火くんはどれにする?」
「んー、そうだなぁ……」
小さなメニュー表を持っているありさちゃんに見せてもらい、どれを注文するか決めようとするが……正直、どれでもよかった。ありさちゃんとクレープが食べれればなんでもよかったのだ。なので俺は、逆に質問をする。
「ありさちゃんはどれにするの?」
彼女はメニュー表をしばらくじっと見ると……メニュー表に載っている商品を指さした。
「私はガトーショコラとイチゴが乗ってるクレープにしようかな」
そんな彼女の言葉を聞いて、俺は即答した。
「じゃあ俺もそれで」
「同じのでいいの? 他にもいろんな種類のクレープがあるけど……」
俺は頭を掻きながら平然と嘘をついた。
「いや~、俺もありさちゃんと同じのにしようと思ってたんだ」
「そうなんだ……」
俺たちは45分ほど並んでクレープを注文し、注文したクレープを手に持って近くの公園へとやってきた。そして、俺たちはベンチに腰を下ろす。
「いや~、まさか長時間並ぶとは思ってなかったなぁ……。足が疲れたぁ」
「一緒に並ばせちゃってごめんね」
そう言って謝る彼女の表情を見て、俺は真剣な表情でこう答えた。
「ありさちゃんが謝る必要はないし、君が謝る表情はこれっきり見たくない。俺はありさちゃんが微笑んで笑っている表情が見たいんだ」
「不知火くん……私のことをそこまで思って……」
「だから――」
俺は彼女の頭の上に右手を置いて、笑顔で口を開く。
「ライブをしているときみたいに、笑顔でいてくれ!」
彼女は大きく目を見開いてしばらく見つめ合った後、手に持っていたクレープに目を逸らした。
「ありがとう、不知火くん。私に勇気を与えてくれて……」
「感謝されるようなことはしてねぇよ」
「さてと、食べよっか! クレープ!」
「おう!」
俺たちは注文したクレープを食べ始めるのであった。
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