転校生

 なんとか冤罪を免れて学校に着いた俺は、自分の席に着くとでかいため息をついた。


「なんだか今日はいつもの日常とは違うような……てか、助けてくれた女子高生にお礼言い忘れたし」


 じっとは見ていないからあまり顔を覚えていないが、銀髪のショートカットだったのは覚えている。


「ありさちゃんみたいだったなぁ……」


 ありさちゃん本人ではないと思うが、なぜか俺は彼女のことが頭から離れなかった。


「朝からちょーアンラッキーなイベントがあって頭の整理がまだ追いついてないんだな。深呼吸をして落ち着け、俺……」


 俺はそう言うと深呼吸をして落ち着こうとした――すると、誰かに肩パンをされて後ろを振り向いた。


「おはよッ! 羅一!」

「朝から肩パンすんなよ……蓮夜」


 緑川みどりかわ蓮夜れんや……俺の唯一の友人だ。勉強はできないバカだが、運動神経はちょーが付くほど抜群で、高校はスポーツ推薦で入学したそうだ。ちなみにサッカーをやっている。


「こちとら、朝からちょー大変だったんだ」

「何何何? 何があったんだ!?」


 何回何って言うんだよ……。つうか、距離ちけぇ……。


 俺と蓮夜の距離は唇が触れ合う寸前だ。少しでも俺が顔を前にしたら、蓮夜とキスをしてしまう。絶対ヤダ! 俺のファーストキスをコイツに奪われたくない!!


「あの~、距離が近いんだけど……」

「教えてくれ! 何があったんだ!?」


 俺はため息をつくと、彼から距離をとって今朝の出来事を話した――。


「ハハハハハッ! それは災難だったな!」

「笑い事じゃねぇよ……しばくぞ」


 すると、蓮夜は笑うのをやめて俺の机の上に尻を乗せる。


「だけど、捕まらなくて良かったな! 相棒!!」

「ああ、本当……助けてくれた女子高生に感謝だよ」


 そんなことを話しているうちに、朝のホームルームの時間になったので蓮夜は自分の席に戻る。前方の扉が開いて担任の女性教師が入って口を開いた。


「皆さん、突然ですが今日から一緒に授業を受ける転校生を紹介します」


 こんな時期に転校生が来るなんて珍しいな……。


 転校生と言うワードを聞いて、教室内はざわざわする。


「はい、皆さん静かにしてください」


 先生の一言で教室内は静まり返った。


「それでは入ってきてください」


 先生がそう言うと、開かれている前方の扉から……銀髪のショートカットで眼鏡をかけている女子高生が教室に入ってきた。


「はっ……!?」


 俺は転校生を見て目を大きく開けて驚愕する。


「自己紹介をお願いします」

「東京から引っ越してきました。鶴瀬有栖つるせありすです。よろしくお願いします」

「鶴瀬さんの席は、一番後ろの空いている席だからね」

「はい」


 そう言うと彼女は、俺の隣の席に座ってきた。


 彼女はまだ気づいていないようだが、俺は内心混乱していた。ええッ!? マジでどうなってんだよ!今日は!? 転校生って……今朝、俺を助けてくれた女子高生じゃねぇかよッ!!


 俺は深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、隣の席に座っている彼女に話しかける。


「あの~」

「ん?」


 彼女は俺の方を振り向く――口を開いた。


「なんですか?」

「なんですかじゃねぇよッ! 今朝、電車内で痴漢をしたって冤罪をかけられた男子高校生だよ」


 すると、彼女は目を丸くして気づいた素振りを見せる。


「あー、奇遇ですね。また会えるなんて」

「全然驚かないのかよ……。まあいいや。今朝は、助けてくれてありがとう。鶴瀬さんがいなければ、俺は冤罪をかけられて捕まっていただろうし……」

「当然のことをしたまでです」


 そう言う彼女だが、自分では気づいていないのだろう。俺と同じく……いや、それ以上にちょうちょうちょーが付くほどニヤケ面をしていた。救世主だけど、さすがの俺でもちょっと引くわ。


「ど……どうして鶴瀬さんは東京からこっちに引っ越してきたの?」


 すると、彼女はニヤケ面から真剣な表情に変わって口を開く。


「今まで住んでいた家が火事で住めなくなったので、別荘があるここに引っ越してきたんです」

「へぇー、そうなんだぁ……」


 別荘があるってことは……鶴瀬さん、めっちゃ金持ちの家系なんじゃね?


「災難だったね」

「はい……」

「家族全員、無事だったの?」

「なんとか……」


 俺は両腕を上に伸ばしながら口を開く。


「良かったぁ……鶴瀬さんも鶴瀬さんの家族も全員無事で」

「……どうして私たちの心配をしてくれるんですか?」

「どうしてって……心配するのが当たり前なんじゃねぇの?」

「…………あの、良かったら昼休み一緒に昼食をとりませんか?」


 俺は彼女の言葉に一瞬戸惑うが、すぐに返事をする。


「別にいいけど……どうして俺なんかを誘ってくれるの?」

「その……あなたに興味が……。そういえば、あなたの名前を聞いていませんでした」

「不知火羅一だ」

「不知火さん……ですか……」


 俺は頭を掻きながら口を開く。


「りょーかいした。昼休みは一緒に飯を食おう」

「……はい!」


 俺は彼女と話していて気になるところがあった。それは、彼女が推しのありさちゃんと同じ髪色で髪型なのだ。しかも、身長もほぼ一緒のように思える。胸は制服を着ているから大きさが分からないが……。


『偶然どっかで会ったりしねぇかなぁ……』


 昨夜呟いた言葉が、なぜか俺の頭から離れなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る