転校生
なんとか冤罪を免れて学校に着いた俺は、自分の席に着くとでかいため息をついた。
「なんだか今日はいつもの日常とは違うような……てか、助けてくれた女子高生にお礼言い忘れたし」
じっとは見ていないからあまり顔を覚えていないが、銀髪のショートカットだったのは覚えている。
「ありさちゃんみたいだったなぁ……」
ありさちゃん本人ではないと思うが、なぜか俺は彼女のことが頭から離れなかった。
「朝からちょーアンラッキーなイベントがあって頭の整理がまだ追いついてないんだな。深呼吸をして落ち着け、俺……」
俺はそう言うと深呼吸をして落ち着こうとした――すると、誰かに肩パンをされて後ろを振り向いた。
「おはよッ! 羅一!」
「朝から肩パンすんなよ……蓮夜」
「こちとら、朝からちょー大変だったんだ」
「何何何? 何があったんだ!?」
何回何って言うんだよ……。つうか、距離ちけぇ……。
俺と蓮夜の距離は唇が触れ合う寸前だ。少しでも俺が顔を前にしたら、蓮夜とキスをしてしまう。絶対ヤダ! 俺のファーストキスをコイツに奪われたくない!!
「あの~、距離が近いんだけど……」
「教えてくれ! 何があったんだ!?」
俺はため息をつくと、彼から距離をとって今朝の出来事を話した――。
「ハハハハハッ! それは災難だったな!」
「笑い事じゃねぇよ……しばくぞ」
すると、蓮夜は笑うのをやめて俺の机の上に尻を乗せる。
「だけど、捕まらなくて良かったな! 相棒!!」
「ああ、本当……助けてくれた女子高生に感謝だよ」
そんなことを話しているうちに、朝のホームルームの時間になったので蓮夜は自分の席に戻る。前方の扉が開いて担任の女性教師が入って口を開いた。
「皆さん、突然ですが今日から一緒に授業を受ける転校生を紹介します」
こんな時期に転校生が来るなんて珍しいな……。
転校生と言うワードを聞いて、教室内はざわざわする。
「はい、皆さん静かにしてください」
先生の一言で教室内は静まり返った。
「それでは入ってきてください」
先生がそう言うと、開かれている前方の扉から……銀髪のショートカットで眼鏡をかけている女子高生が教室に入ってきた。
「はっ……!?」
俺は転校生を見て目を大きく開けて驚愕する。
「自己紹介をお願いします」
「東京から引っ越してきました。
「鶴瀬さんの席は、一番後ろの空いている席だからね」
「はい」
そう言うと彼女は、俺の隣の席に座ってきた。
彼女はまだ気づいていないようだが、俺は内心混乱していた。ええッ!? マジでどうなってんだよ!今日は!? 転校生って……今朝、俺を助けてくれた女子高生じゃねぇかよッ!!
俺は深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、隣の席に座っている彼女に話しかける。
「あの~」
「ん?」
彼女は俺の方を振り向く――口を開いた。
「なんですか?」
「なんですかじゃねぇよッ! 今朝、電車内で痴漢をしたって冤罪をかけられた男子高校生だよ」
すると、彼女は目を丸くして気づいた素振りを見せる。
「あー、奇遇ですね。また会えるなんて」
「全然驚かないのかよ……。まあいいや。今朝は、助けてくれてありがとう。鶴瀬さんがいなければ、俺は冤罪をかけられて捕まっていただろうし……」
「当然のことをしたまでです」
そう言う彼女だが、自分では気づいていないのだろう。俺と同じく……いや、それ以上にちょうちょうちょーが付くほどニヤケ面をしていた。救世主だけど、さすがの俺でもちょっと引くわ。
「ど……どうして鶴瀬さんは東京からこっちに引っ越してきたの?」
すると、彼女はニヤケ面から真剣な表情に変わって口を開く。
「今まで住んでいた家が火事で住めなくなったので、別荘があるここに引っ越してきたんです」
「へぇー、そうなんだぁ……」
別荘があるってことは……鶴瀬さん、めっちゃ金持ちの家系なんじゃね?
「災難だったね」
「はい……」
「家族全員、無事だったの?」
「なんとか……」
俺は両腕を上に伸ばしながら口を開く。
「良かったぁ……鶴瀬さんも鶴瀬さんの家族も全員無事で」
「……どうして私たちの心配をしてくれるんですか?」
「どうしてって……心配するのが当たり前なんじゃねぇの?」
「…………あの、良かったら昼休み一緒に昼食をとりませんか?」
俺は彼女の言葉に一瞬戸惑うが、すぐに返事をする。
「別にいいけど……どうして俺なんかを誘ってくれるの?」
「その……あなたに興味が……。そういえば、あなたの名前を聞いていませんでした」
「不知火羅一だ」
「不知火さん……ですか……」
俺は頭を掻きながら口を開く。
「りょーかいした。昼休みは一緒に飯を食おう」
「……はい!」
俺は彼女と話していて気になるところがあった。それは、彼女が推しのありさちゃんと同じ髪色で髪型なのだ。しかも、身長もほぼ一緒のように思える。胸は制服を着ているから大きさが分からないが……。
『偶然どっかで会ったりしねぇかなぁ……』
昨夜呟いた言葉が、なぜか俺の頭から離れなかった。
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