冤罪をかけられた俺を助けてくれたのは、推しのアイドルでした

髙橋リン

プロローグ

 時刻は23時を過ぎ、暗闇の部屋の中、布団にくるまってスマホの画面を見ている高校二年生の俺――不知火しらぬい羅一らいちはニヤケ面をしていた。はたから見たらちょーキモいと思われるかもしれないが、そんなことは一切気にしない。なぜなら――。


「今日もめっちゃ可愛いなぁ~。ナナクロのありさちゃん」


 アイドルグループ名、ナナイロクローバー……通称ナナクロのメンバー、西園寺ありさ。彼女は端正な顔立ちで、しかも16歳なのに胸が大きくエロい身体をしている。銀髪のショートカットで身長は164センチ、体重は公表していないが、俺が今見ている2週間前のライブ配信で姿を見る限り、50キログラム前後ではないだろうか? 


 俺はそんな西園寺ありさちゃんのことを推している。


 ありさちゃんを知ったきっかけは、偶然テレビでニュースを見ていたらナナクロにアナウンサーが取材をしており、テレビに映ったありさちゃんを見た瞬間……恋のキューピットに心臓を矢で撃たれた。(ドタイプで一目惚れしたということ)


 それから俺はナナクロのライブ配信を見るようになった。ナナクロというよりかは、ありさちゃんを見るために! 


「あー、実際に会ってみてぇなぁ……。ありさちゃんと握手したいよぉ~!」


 俺が住んでいる地域からナナクロのライブ会場に向かうには、新幹線を使わないといけない……が、しかし今俺の貯金は2万円ほどしかない(親からもらった金)


「バイトしたくねぇからなぁ……」


 俺はそう言いながらスマホをベッドの上に置いて、布団から頭を出して仰向きで目を閉じる。


「偶然どっかで会ったりしねぇかなぁ……」


 俺は一言呟くと、眠りについたのだった。


 翌朝、俺はあくびをしながら目をこすって学校へ向かうために、駅のホームで電車が来るのを待っていた。通勤ラッシュの時間帯ということもあり、学生やサラリーマンが数えきれないほどたくさんいる。


『まもなく一番線に電車がまいります。黄色い点字ブロックの内側まで下がってお待ちください』


 走ってきた電車が停車し……扉が開いたため、俺は満員電車の中に乗り込む。


『一番線、扉が閉まります。ご注意ください』


 扉が閉められて、電車が動き出す。


 俺は右手でつり革を掴み、左手は下げた状態で目的の駅に着くのを待っていた。車内はシーンとしており、まるでお通夜をしているようだ。まあ、もう何度も満員電車に乗っているから慣れているけどな。


 それからしばらくして、俺がボーっと正面を見ていると……突然、隣の女性が叫び出した。


「痴漢です! お尻をこの人に触られました!」


 そう言いながら女性が指をさしたのは……俺だった。


「はっ……?」


 俺は状況が飲み込めず、困惑してしまった。えーと、痴漢をされた人がなぜか俺のことを指出して――つまり、冤罪をかけられているってこと!?


「えっ……いや……俺はあなたに痴漢なんかしてませんけど……」

「嘘言わないで! その下げている左手で私のお尻を触ったでしょ!」


 俺は状況を理解し、自分がピンチだということに気づく。このままだと俺……痴漢してないのに冤罪で警察に捕まっちまう!! なんとかしねぇと……!


 そう思った矢先……サラリーマンの男性が俺の両腕を掴んで拘束した。


「ちょ……何するんだよッ!」

「痴漢しているくせにシラを切ろうと思っているのか!」

「はあ……!?」

「次の駅に着くまで大人しくしてろ!」


 このままだと学校に遅れるし、学校に通えなくなる! マジでヤバい……けど、今のこいつらは俺が口を開いたところで聞く耳を持とうとしねぇ……。詰んでる……無理ゲ―をやっている気分だ。


「ありさちゃん……」


 偶然どっかで会ったりなんかしないのに、もしかしたら推しに会えるではないかと希望を抱いていた自分がいた。


「バッカみてぇ……」


 こんな地方に推しのアイドルがいるはずないし、今この状況を誰かが覆してくれやしない。一体俺の人生って何だったんだろうな……。


 俺は下を向く――すると、一人の女性が口を開いた。


「痴漢をした人物はこの人です。そこの男子高校生ではありません」

「えっ……」


 俺が顔を上げると――銀髪ショートカットで眼鏡をかけている女子高生が、痴漢をしたと思われるおじさんのことを指さしていた。


「えっ……本当なの?」

「はい。私、このおじさんがあなたに痴漢をしている一部始終を見ていましたから」

「てことは……私は勘違いをしていたってことよね?」

「そうですね」


 すると、痴漢をされた女性は俺の方を向く。


「ごめんなさい! 勘違いをしてしまって」


 ごめんなさいで済むかよ。こっちは人生が終わるところだったんだぞ! と言いたいところだが、俺は大人の対応をする。


「痴漢をされてパニックになっていたんですから、勘違いをされてもおかしくはないです」


 俺はそう言うと、更に言葉を続ける。


「話は変わりますが、痴漢をした真犯人は……冷やせをかいている変態クソおやじで間違いないようですね」


 俺は鷹のような鋭い目つきで痴漢をした人物に視線を向ける。


 すると、今まで俺のことを拘束していた男性が歩きだして……痴漢をした人物を拘束する。


「謝るから許してくれぇぇぇぇぇぇぇぇええ!!」


 こうして俺は突如現れた女子高生によって、なんとか冤罪を免れたのであった。


 しかし、この時の俺は気づいていなかった。

 いや、なぜ気づかなかったのだろうか。


 助けてくれた女子高生が――只者ではないことに。

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