悪役令嬢の弟に転生して～処刑は嫌なので姉の闇堕ちフラグを折っていたら、姉が自分に執着するヤンデレ落ちしたのだが～

フラウ派

　リューロスト伯爵閣下はフラウの味方になった！

　具体的なものは何もないこの言質であるわけだけど、味方になったというその事実は大きい。

　フラウにようやく後ろ盾が出来たわけだからね。

　これにより、リューロスト伯爵家は孫娘を守るためという建前で中立。フラウはある程度の安全を確保出来たかな。

「まだ公には発表していないが、ウェスティン侯爵家の当主……つまりは俺の父はもう既に亡くなっている。かなり前の段階から病床で寝たきりだったんだ。今の当主はこの俺だ」

　なんて考えていたわけだが。

「……えっ？なんて？」

「だから、カイザー侯爵家の当主はこの俺ってことだ」

　それはオットーの言葉によって、崩れつつあった。

「そして、ウェスティン侯爵家の当主として、俺はフラウの側につくと宣言する」

「……おっと」

　増えたな、フラウの味方が。

　未だにあの応接室の中でフラウとリューロスト伯爵閣下が友好を深めている中、オットーからの誘いで離席した僕はそのオットーからの話を聞き、頭を回転させ始めていた。

「フラウを国王に。それが可能な派閥はもう出来る……俺の家は既に亡くなった国王陛下からかなり目をつけられ、嫌われているような状況だったからな。その流れを継ぐであろう王太子たちが次期国王になるよりも、フラウが国王となってくれた方がありがたい。王太子にはもう盛大に喧嘩を売ったしな」

「うぅん……」

　そっかー、もう出来ちゃうのかぁ。

「流石に二家だけじゃ足りなくない？」

「既に俺の伝手を辿り、フラウの味方になってくれる者たちを集めている。現政権に対しての反目を抱いている者たちを集めるだけの簡単な仕事だったさ。それに、俺の家とて侯爵家。下にいる者たちだっている。俺の婚約者の家も協力してくれる言質を引き出している。うまくやってみせたさ」

「なるほど」

　わー、仕事が早い。

「……フラウ派はもう既に出来ていると？でも、どうやって集めたの？頭がフラウってのはちょっと不安じゃない？」

「……そこは、その。お前の名前を利用させてもらった」

「へ？」

「ラインハルト辺境伯家の嫡男の弟子がフラウってことを散々と利用させてもらった。表立っての支援はないだろうが、裏からのテコ入れはあるだろうから、勝率は十分にあるってな」

「なぁーるほど……確かに、王家の主流から外れることを露わにするなら、ラインハルト辺境伯家の名前は大きいよね」

「そういうことだ」

「……それはどれくらいの規模なの？」

「まだ、小さいな」

「なるほど。それじゃあ、僕の伝手を使って、フラウの味方してくれそうな人たちを集めるよ」

　どうせ、フラウを国王にするための策はあったし、彼女の派閥を作るための準備もしていた。

　それを動かしちゃおう。

「……っ」

「案外僕だって顔は広いからね……あー、それで、うん。王都に戻ろう」

「……はっ？王都に？」

「そっ。フラウの派閥はまだ弱いからね。大きなことをする必要がある。王位戦に名乗りを上げる……そのきっかけが欲しいのさ。まぁ、王位戦に名乗りを上げる、まではいかなくていいけど、名前は売っておく必要があるだろうね。フラウという名を」

「……確かに、そうだろうけどぉ、だからといって、王都は危険するのではぁ？」

「僕は君みたいに真っすぐじゃないんだ」

「はっ？」

「フラウの派閥を作るために反王家の人間を、という王道なことはせず、むしろ、王家に近い人間から奪おうとするんだ。自分の味方だと思っていた奴が、自分とは真反対の奴の味方につくのだとしたら、相手の意表をつけるでしょ？そんな考えで動く僕はちょうど、今も王都に残っているような人たちと接触することが多くてね」

「いや、それが出来たら一番いいかもしれないが、それが出来たら苦労しないだろ」

「それをやるのが良いんじゃん。謀略ってそのためにあるんだよ。手段ならいくらでもあるでしょ？知っている？犯罪はバレなきゃ犯罪じゃないんだよ」

　それぞれの貴族が何を欲しているのか……それは、ゲームのサイドストーリーなどで触れられることが度々ある。

　それらを知っているのなら、取り込むのは簡単。

　他にも、裏取引をしていた証拠をもって脅迫するとか……マッチポンプで恩を売るとか、いっぱい出来ることはある。

「……なんつぅーか、俺、この後。お前に謝ろうと思っていたんだ」

「えっ？何で？」

「……お前に、絡みに行った時のことをもう一度、謝ろうと思っていたんだよ。あの時の俺は既に父上が亡くなるのは既定路線。国からは家が嫌われている……少しでも、王家の人間からの印象を良くしたくてな。それで、お前に絡みにいったわけなのだが……」

「なるほど。そういう事情もあったのね」

「別にこれをして申し訳ないと思う必要がなさそうな手合いだな。お前は」

「ははっ、何を今更？別に僕も気にしていないから構わないよ。一緒にフラウを国王にしようね」

　僕はオットーの言葉を笑い飛ばし、自分の手を彼の方に差し出す。

「……これ以上頼もしい手はないな」

　そして、それをオットーは取るのだった。

「フラウを国王にする。これは僕の変わらぬ本音。ゆめゆめ忘れないことだね」