国王
ユノレヒト王国。
農業に適した肥沃な土地に加えて、その上に世界有数の教育機関まで持つ。
だが、国内政治。それだけが問題だった。
ユノレヒト王国は、王国と名乗りながらも帝国というほどが正しいような国なのだ。
数代前の偉大にして、最強格の賢王が戦争によって領土を拡張し、大国まで押し上げた───そんな、カリスマ型国家がユノレヒト王国なのだ。
始皇帝然り、アレクサンダー大王然り。
一人の絶対的なカリスマが作り出した強国は、そのカリスマが没すると共に崩壊していく例が後を絶たず……ユノレヒト王国も同じようなものだった。
賢王が没した次代の王はカリスマ無き国家を保てず、崩壊させかかった。三世代目はラインハルト辺境伯家と協力しながら、何とか崩壊だけは免れるようにした。そして、それから、時が経てば経つほどに国内政治は不安定になり、幾度も分裂の危機に瀕した
「……何故、何故、こうなるのだ」
国王はそれを変えんとした。
ユノレヒト王国は間違いない強国だ。他国との戦争においても負けはしない……。
「あそこだ……あそこだっ、何故、我が国は負けたのだッ」
だが、敗北した。
数世代前のカリスマ型君主と同じように、当代の国王は戦争において名声を稼ぎ、国内政治に安定をもたらそうとした。
自分というカリスマの元に国内をまとめようとしたのだ。
それでも、敗北した。だから、終わったのだ。
「あの女の、あの愚妹のせいだッ!」
その戦争において、ユノレヒト王国最強の騎士であるティナ・カイザーは一人の女性の護衛の為に参加しなかった。
「……あれが、あれが動いていれば」
後悔であれば、無限に列挙出来る。
「……まだ、蝕むか。あの愚妹は」
たった一人、ユノレヒト王国の国王は自身の執務室で毒を吐く。
恨み。
国王がアークとリーズの母を暗殺したのは、ただの逆恨みであった。
「ふんっ」
今なお続く逆恨み。
それを胸に抱える国王は静かに自分の前にある水の入ったコップを眺める。
「我を暗愚と思うなよ?いい加減気づくわ……何処から入り込んだのか。アークめ、我の飲み物に微弱な毒を仕込んでおったな。それも数年以上に渡って。巧妙に体を弱らせ、……病に我が勝てないように。まったくもってズルい。まさか、感知できないようなあまりにも微細な毒で、体を弱らせ、小さな病に罹かるだけ死するような状況に追い込むだけとは。もはや暗殺とも呼べぬわ」
そのコップには、ほんのわずかな毒が含まれていた。
「ふふふっ。だが、あまりにも遅いな。今更だ……王太子があんな状況ではな。我が死んだ後に玉座を巡っての一戦は起こるだろう。我が玉座へとついた時のように」
国王はアークが自分に対しての恨みから、暗殺しようとしていることに気づいた。
でも、もはや手遅れ。
「禅譲しようにも、……波乱は起こるな。王太子があの様では。ふぅー、いや、こうなっているのも我のせいか。あのフラウを周りがいびっているのは知っていた。それにより、何時かはしっぺ返しがあるとわかりながらも、その上で後回しにしていた。それをつかれた時点で詰みか」
アークは完璧だった。
完璧に、国家を破綻させ、王位継承戦が起きる場面を生み出した。
数年前から、ずっと準備してきたのだろう。
「かっかっか。いっそ、我が死に、我が血族以外ではあるが……また、新しいカリスマが生まれるという点ではいっそ良いか。その際は、フラウが王になるのかね?」
たった一人の部屋で笑う国王は、自分の前にある毒入りの飲み物を掲げる。
「ユノレヒト王国初の女王誕生に乾杯」
そして、それを一気に呷るのだった。
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