第三章 転生した少年

大きな火種

 僕の想定通りに動き出した歯車。

 それは完璧に機能し続けていた。

 大勢の観衆が詰めかける中で王太子であるコロヌスに無様を晒させる。それによって起こる王太子の座にコロヌスが相応しいのかという疑問。あの落ちこぼれ、フラウに負ける王太子は如何なものかと。

 この世界において、実力というのは重要なのだ。王侯貴族とは人の前に立ち、力を振るう者のことなのだから。

 そんな状況を焚きつけるよう、幾つかある有力な王位継承権所持者の陣営へと僕が送り込んでいるこちらの手駒に支持を出していた。我々の陣営の王位継承者こそ、王太子に相応しいと。

 そして、それに相対する王太子の陣営の方にも送り込んでいる僕の手駒に危機感を煽らせる。

 その危機感に背中を押された王太子の母親がまず、火消しの為にフラウへと暗殺者を送り込む……すべて、想定通り。

 そう、すべてが僕の想定通りだった。


 ……。


 …………。


「……わ、私がぁっ」


 フラウの元に暗殺者が送られた回数はもう数えるのも馬鹿らしくなるほどだった。


「……なんで、暗殺者なんかに、狙われているの?」


 第二回目の特別試験から三日後。

 学校を強制的に休むように言われ、家に閉じこもっているフラウが何故、自分が暗殺者へと襲われているのかと嘆き、悲しむ。


「あれだけのことをすれば……まぁ、ない話でもないだろう」


「まぁねぇー」


 そして、そんなフラウと共にこの家にずっといる僕とオットーが言葉を交わし合う。


「……えっ?師匠は、こうなるってわかっていたの?ついでに、オットーも」


「うん」


「とはいえ、俺はこんな頻繁に襲われるとは思ってもみなかったし、こんな暗殺者が送られてくるとは」


「……それに関してはマジで知らん。王太子を倒せば、向こうが何かしら動くだろうってのは想定したけどさ。こんな派手にやるとは思ってもみなかったし、暗殺者を送りにしても、ここまでずさんなことをしているとは思わなかったよ」


「うぅむ……そうか」


 まぁ、僕が上手く向こうに情報が行かないようにしているからね。

 依頼を受けた暗殺者が途中で、フラウの周りにいる僕とティナにビビッて依頼をキャンセルした……そんな感じの情報を伝えている。

 向こうはこんなにも暗殺者を捕まえられているとは思わないだろう。

 

「私としては、まず、こんなことになるのを前提としていた二人が信じられないのだけど……」


「そう?でも、フラウが成長するにはこれくらいのことが必要だったと思うよ?」


「あ、暗殺者に襲われることの何処がっ!?」


「ここまでしなきゃ、軽んじられ続けてきた君の立場は変わらないでしょ。一生、そんざいに扱われて終わりだったと思うよ。僕は。君が力を示す場には」


「も、もっと穏便な方法だってあったはずで……ッ」


「たった一度の敗北如きでここまでやる向こうの方が悪いだろ。どう考えても。一度の敗北でここまで動揺するほどに王位継承戦ってのは不安定なんだよ。そこで君がこれまで培ってきた落ちこぼれというレッテルを剥がすような大活躍……それを許すような環境には元からないんでしょ」


 僕が裏で暗躍していなければ、ここまでの大事件にはならなかっただろう。

 僕のせいで王太子の母親は錯乱しているからね。


「……だ、だとしても」


「心配しなくとも、このまま静観していれば、いずれ向こうも諦めるでしょう。どうせ、何の後ろ盾もないフラウだったら、王位継承戦に何の影響も与えないことはわかるでしょ」


 だからこそ、フラウなんかを襲ったところで何の意味もないことがわからない。

 フラウを殺せば、負けたという事実がなくなって、王太子の名声が元に戻るなんて妄想を拗らせているのだ。


「だから、所詮は一時的なものだよ。何かあったら僕が守るよ。だから、安心して」


「……わかったわよ。それで」


 色々と言いたいことはありそうな表情……そのすべてを呑み込んで、フラウは僕の言葉に頷くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る