暗殺者

 ティナ・カイザー。

 僕の師匠であり、人類最強でもあるその人物……彼女を僕の味方として引き込めるかどうか。

 これはちょっと賭けみたいなところはあったのだが、彼女の反応を見るに、失敗はしないと思う。


「んー……ねむっ」


 ティナと軽く会話し、軽い頼み事をしていたりすれば、時刻はもう朝と言っていい頃になっていた。


「……そろそろかな」


 まだ、他の三人が起きてもいない頃、僕はふらりと立ち上がる。そして、そのまま、一旦としてフラウの家を後にする。

 そんな僕はフラフラとそのまま朝のおさんぼと洒落込んでいく。散歩で軽く体を動かして、体を目覚めさせた後、そのまま王都外れの森林部へと一人でやってくる。

 まずはそこで柔軟を行なっていく。体を伸ばす……というよりは、もう伸び切った自分の体が再び硬くならないようにという意味合いの方が強い。


「はっ、はっ、はっ」


 そして、体が十分に伸び切ったその後に、剣の素振りを行なっていく。

 こう言った基礎を疎かにすることはできない。


「ふぅー」


 たっぷりと時間をかけ、一通りの基礎的なことを十二分に行っていく。

 最後に魔法の数々。それらの試運転と、実験をいくつか行えば、僕の毎日やっている訓練は終わりだ。ここまでで大体一時間と30分程度。そこまで長いわけではないが、これを毎日やりつづけるのはかなり地道で、大きなことだ。


「ただいま」 


 それらを行った後、僕はフラウの家へと帰ってくる。


「な、なんで……?」


「知らないわ。ただ、暗殺者がいた。それだけの話よ」


「いや、そのなんで暗殺者がいるのかという話だろう……ッ!」


 僕が家に帰ってきたところ、そこに広がっていたのは混乱だった。

 フラウの家の床に転がっている黒服を着た者たち───つまりは、王宮より派遣された暗殺者だ。


「あっ!師匠!」


 そんな者たちを前に騒然としていた部屋へとやってきた僕に対し、フラウが反応する。


「し、師匠……き、聞いて欲しいの。いきなり、私の家に暗殺者と思われる人が来て……な、なんで私の家なんかに……っ!」


 フラウは心底理解できない、とでも言いたげな表情で僕の方に話しかけてくる。


「さぁ……何だろうね?」


 その言葉に対し、僕は意味ありげな笑みを浮かべて、返す。


「……」


「どう、いうことなの?」


「うわ、絶対に知っている反応だわ」


 普通に考えて、王太子のバックにいる者たちが、王太子に無様を晒させたフラウのことを許すわけもないのだ。

 暗殺者を送ってくるのは既定路線……というか、そうなるように仕向ける過激な取り巻きを僕は王太子の母方の方に仕込んでいる。

 フラウの元に暗殺者が送り込まれるのは半ば必然だった。


「師匠を、狙っての暗殺者なの?」


「なんでそうなるの?もし、僕を狙っているんだったら、僕のいない時間帯に襲ってこないでしょ。さっきまで僕は日課の訓練をこなしてきただけだもの。全然、僕がいないことは向こうも当然のように把握していると思うよ」


「じゃ、じゃあ……誰を狙って?」


「さぁ?どうだが……いずれわかるでしょ」


「ご、誤魔化してないでしょうね?師匠の反応、明らかに何かを知っている人の反応だと思うのだけど……」


「師を信じろ」


 自分がしたことの重大さをまるで理解していないフラウの言葉を僕は軽く受け流す。

 今はこれでいい。


「……」


 そして、もう事情はなんとなく察しているのだろう。こちらに対して、何か言いたげな視線を送ってくるオットーにはウィンクで返すのだった。

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