勝利
味方である僕から攻撃を受けるという珍妙な状況に置かれているフラウ。
それでなお、フラウは王太子を追い詰めた。
「……」
追いつめられる王太子を前に、この場にいた聴衆は徐々に言葉を失い始める。
そして、別のステージで戦っている途中であった生徒たちも動きを止め始める。
王太子が負ける。
その事実。
その可能性を前に、全ての者が、その戦いに釘付けとなっていた。
「……勝った?」
その果てで、フラウは僕の想定通りに王太子であるコロヌスを打ち倒した。
「お疲れぇ!ちゃんと勝てただろう?」
王太子が負けた。
その事実に、誰もが黙る。
そんな中で、僕だけはフラウに後ろから抱き着き、喜びの声を彼女へと伝える。
「か、勝てたの……?」
その事実の重大さ。
それに気づいていないのは、おそらく、僕に抱き着かれながら、呆然と言葉を漏らしているフラウくらいだろう。
フラウが王太子を倒してしまったという事実の重みを。
「あぁ、勝てたのさ。君は、ちゃんと強くなれたんだよ」
「そ、そう……そうなの」
諸々の事実。
それをすべて呑み込み、ただ明るく声をかける僕の言葉にフラウは頷く。
「……その、師匠は私に何をしたの?どうやって、私をコロヌスに勝たせたの?」
「ん?それはフラウが一番知っているでしょ。僕はただただ後ろから君のことを魔法で撃っているだけだったよ」
「そ、そうよ───ッ!」
「だから、勝利を手繰り寄せたのは間違いなくフラウ自身の力だよ。フラウの力が、確実にコロヌスを倒したんだよ」
「そ、そう……ッ」
はっきりと、コロヌスを倒したのはフラウの力だと断言した僕を前に、彼女は喜びの感情を漏らし始める。
「あ、あまり自覚ないんだけど……そう、そうなのね。私、勝てたのね……っ」
「あぁ、そうだよ。君は、ちゃんと強くなれたんだよ」
困惑交じりに、それでも確かな喜びを携えているフラウの言葉に僕は頷く。
「……ふふっ」
そして、今度はフラウに聞こえないような声量で僕は笑みを漏らす。
さぁ、国が動くよ。
王太子という陽が落ち、夜の時間だ。
……。
…………。
「は、はぁぁぁぁああああああああああ!?あの子が負けたっ!?あの子が、あの落ちこぼれのフラウに負けたぁ!?何を、何を言っているの!?」
王都に、一人の女性の声が響き渡る。
「それじゃあ、それじゃあ……あの子の将来はどうなるのっ!?あの落ちこぼれに負けたなんて不名誉を背負って、あの無知蒙昧でどうしようもない無能たちが騒ぎ出すじゃない。また、また……自分たちの子供こそが、国王に相応しいなどという宣いごとを……ッ!」
怒り。悲鳴。
激流の感情と共に、言葉が紡がれる。
「───」
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