場
試験の日程はつつがなく進行する。
特に大きな問題もなく、第二回目の特別試験の日程は進行し、各生徒たちが自分たちが戦うことになるステージへと移動させられていた。
「お前たちの班のもう一人はウェスティン侯爵家の嫡男か」
僕たちの小部隊が戦うことになるのはコロヌスのところ。
自分たちの前に敵として立つコロヌスは僕たちの側にいるオットーの方視線を送って、笑みを浮かべる。
「ぎぐぅ……っ」
そんなコロヌスの視線を受け、オットーは頬を引きつらせる。
コロヌスは曲がりなりにも第一王子。僕たちのように中央からは遠くも権力を持つ辺境伯家ではなく、中央から近い侯爵家だと、第一王子に喧嘩を売ったというのは大きな意味となる。
オットーにとって、この状況はそこまで歓迎できるわけじゃないだろう。
「そんな焦ったような表情をするでない。あくまで、これは授業だ。私の前に立ったからと言って、敵と扱うことはない。安心したまえ」
「ほっ……」
「とはいえ、その愚妹と、俺に喧嘩を売った姉弟は別だがな?」
オットーを寛大な心で許したコロヌスはだが、僕とお姉ちゃんの方に強い視線を送ってくる。
「貴様たちは、何をしている?」
そのコロヌスの視線の先。
そこにいるのは試験会場へと持ち込んでいる一つの椅子に二人で座っている僕とお姉ちゃんの姿だ。
「その椅子は一体、何処から持ってきたものだというのかね?うん?」
「武器だよ」
コロヌスの疑問に対して、僕は堂々たる態度で答える。
「君も持ってきているだろう?武器は。それと同じ」
この試験では私物を持ち込むことを許されている。
武器を持ち込むことと、椅子を持ち込むことに差異はない……というのが、僕の屁理屈。これで先生たちを丸めこみ、僕は椅子の持ち込みを許可させた。
「椅子と俺の剣が同じなわけないだろう?戦いにどう扱う。お前の行いはこの試験へと泥を塗るような行為だ」
「違う違う。泥を塗るのは貴方の方だ。その弱さゆえに、試験とならないまでの無様を晒し、この試験の価値をゼロとしてしまうのだ」
「ハッ。本当に、貴様は人を煽るのが上手であるな」
「お褒めに預かり光栄だよ」
僕とコロヌスはにらみ合い、舌を使った前哨戦のボルテージを上げていく。
コロヌスの正論に対し、僕はただただ偉そうな態度だけで戦っていた。
『それでは、諸君。戦闘用意』
そんなことをしていた中で、魔法によって拡散される学年主任の先生の声が聞こえてくる。
そろそろ、試験が始まる時間だ。
「準備せよ、お前ら」
「「「はいっ」」」
それを受け、コロヌスも迷いなく剣を構え、その小部隊として彼が優秀だと思ってピックアップしてきたであろう生徒たちに剣を構えさせる。
「……ちっ」
それに対して、こちら側で構える者は誰もいない。
僕は足を組んで座り、その後ろにいるお姉ちゃんはただ僕の髪を弄って遊び、オットーは最初から自分は何も知らないような顔を浮かべて立ち、フラウは何処までも不安げに視線をきょろきょろさせている。
『それでは、試験開始』
試験開始が宣言される。
「ぬぅんッ!」
その瞬間、コロヌスが地面を蹴り、こちらの方に迫ってこようとする。
「よっ」
だけど、それよりも僕の方がはるかに速い。
一瞬で椅子へと座った状態からコロヌスの前に立った僕は軽く足払いして、地面から前に進もうと足を話した彼を地面に倒す。そして、そのまま周りにいた邪魔な三人の生徒を気絶させ、少し離れたところへと転がす。
「な、何が……?」
驚愕の表情を浮かべ、コロヌスが立ち上がった時にはもう僕は椅子の方へと戻っていた。
「さぁ、いってらっしゃい。フラウ」
場は整った。
僕は自分の隣にいるフラウへと声をかける。
「ほ、本当に私が戦うのっ!?」
「そうだよ。フラウとコロヌスがタイマンするんだ。だから、僕はこうしているし、オットーはさっきから虚空を眺めているんだよ。ここで戦うのはフラウだけだ」
「で、でも、やっぱり私は……」
「うん、いってらっしゃい」
ここで行かせないという選択肢はない。
「待て。さっきから何の話をしている?その口ぶりでは、俺と戦うのがそこの愚妹だけであるように聞こえているのだが?」
「そうだよ?それに対して、文句を言わないでよ。たった今、僕からの足払いで地面へと倒れ伏したのだ。それだけの無様を晒して、まだ戦ってもらえると思うなよ?今のお前にその価値はない」
「……ちっ、すぐにでも、それを後悔させてやる。愚妹。早く前に来い。そこでは観覧者を気取っている奴を巻き込むだろう。お前にも、その後ろにいる二人にも、現実を見せてやる」
「はひぃぃぃ」
コロヌスに睨まれるフラウは恐怖で体を震わせながら、それでも恐る恐る前へと出ていく。
「いってらっしゃい」
そんなフラウを僕は椅子に座ったまま見送る。
彼女の戦いを見守るために持ってきた椅子へと腰を下ろしながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます