班長

 闘技場内に一時的に設置された第二回目の特別試験の本部。

 多くの先生たちが集まるそこに、各小部隊における班長が集められていた。

 小部隊の班長となっているのは一年生であったり、三年生であったりとまちまちだ。

 別にそんな広いわけでもない本部に先生だけでなく、多くの生徒も集められていることでそろそろ人数オーバーが近くなってきている。


「何だ、お前のところの班長はお前なのか」


 そんな中、多くいる人混みの中よりフラウのことを見つけてきたコロヌスが近づいてくる。


「……あ、あはは」


 そのコロヌスを前にするフラウは困ったように苦笑を浮かべる。


「あの生意気で学生としての自覚ない女や、傲慢で生意気な後輩でもなく、お前か。あの二人でもあれば、前哨戦としての舌戦にも興が乗ったであろうに」


 少し見ればわかる。

 フラウは誰がどう見ても、へっぴり腰でずいぶんと卑屈な態度を見せていた。

 その姿を見て、好戦的だと思う者も、戦う意思があるとさえ思う人もいないだろう。


「それで?あれだけ啖呵を切った中で、お前たちは俺に勝てる算段がついたか?」


 勝てる算段は間違いなくある。

 純粋にアークとその姉であるリーズは強すぎるのだ。学生としてのレベルはとうに超えている。

 

「いや、それは……その」


 ただ、自分ひとりで戦わされる。

 それを知っているこの場でただ一人フラウは体を硬直させ、言葉をまごつかせる。

 もしも、これでフラウがみんなで戦うことを知っていれば、もっと強い言葉で勝てると宣言出来ただろう。己の師であるアークへの信頼感ゆえに。

 だが、フラウに自分自身への信頼感は一切ない。

 だからこそ、今のフラウは何も答えられない。


「ハッ」


 そんなフラウを前にして、コロヌスは嘲笑うかのように笑みを吐き捨てる。


「興覚めもいいところだな」

 

 そして、一言。

 コロヌスは今、フラウへの興味を失った。


「何を思って、あの二人はお前を班長にしたのやら」


 そして、漏らすのは失望の吐息。


「あの二人に、戦うのを楽しみにしていると話しておいてくれ。俺は、こう見えても戦いは嫌いじゃないのだ。勝つにせよ、負けるにせよ、成長の糧となるからな。とはいえ、最終的に勝つのは王となるこの俺だが」

 

 何処までも横柄に、偉そうに。

 言いたいことだけ言って、コロヌスは満足げにフラウの元から去っていく。 


「……」


 そんなコロヌスの背中をただ、フラウは見つめることさえ出来ずに視線を床へと落とし、ただただ沈黙し続けているのだった。

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