闘技場

 ただひたすらに僕がフラウと打ち合うことしばらく。

 僅かな時間を過ごせば、もうすぐに第二回目の特別試験が訪れていた。


「うーん。ずいぶんと人気の多い」


 第二回目の特別試験。

 それは観衆の目と共に行われる。

 学園からは少し離れた、王都にある大きな闘技場。

 小分けに区切られた闘技場のステージで試験が行われる。そして、その観客は生徒たちの関係者並びに、世界の権力者たちだ。


「改めてすごいことで」


 うちの学園は世界でも屈指の教育機関。

 今、闘技場内には信じられないほどに世界中の権力者たちが集まり、人混みを作り出していた。

 ここを襲撃すれば、世界が混乱に陥ること間違いなしだ。


「ほ、本当に私がお兄様と戦うの……?」


 試験の当日が来て、闘技場に来て。

 僕の隣にいるフラウが泣き言を漏らす。


「そうだよ」


「やっぱり無理だと思うのよ……」


「なんで?」


「い、いや……だって、結局のところ、やったのは魔法の基礎を洗い流してちょっぴりマシにしたことと、無我夢中で模擬戦をやっただけなのよ?私は、それで本当に強くなれたの?」


「……」


 フラウの言葉に対して、僕は無言で返す。


『これより、第二回目の特別試験の日程を開始する。まず、試合の組み分けを発表する。各小部隊のリーダーは本部に集まり、組み分けを聞くこと』


 すると、ちょうどよく、先生の声が闘技場全体へと響き渡ってくる。


「……な、何か答えて欲しいのだけど?」


「聞いていなかった?うちの班のリーダーはお前だよ。フラウ。君が先生の元に言ってくれないと。全生徒が集結出来るほど、この闘技場内に一時的に設けられた」


「……っ、それを使って、体よく逃げようとしていないかしら?」


「フラウに逃げ場所はないんだよ。ここまで、僕を信じて走ることを強制させられたんだから、最後までそれを完走しな。ほら、いってっらしゃい」


 僕はフラウの背中を軽く押す。


「……わかったわよぉ!もう!仕方ないんだから……行ってあげるわよっ!」


 そんな僕から背中を押されたフラウは不満げに頬を膨らませながら、諦めたように歩き出し、本部の方に向かっていた。


「アーク」


 無理やりな形でフラウを見送った僕へと、少し離れたところで自分たちのやり取りを見ていたオットーが声をかけてくる。


「本当に、アークはフラウがコロヌスへと勝てると思っているのか?」


 そして、聞いてくるのはそんなことだった。


「もちろん」


 その疑問に対する僕の答えは即答だ。


「そんな僕の考えに対して、君は『えぇー?』って、疑問に思う?」


「いや、思わない。正直に言おう。最後の方のお前とフラウの模擬戦に俺が介入できる余地は何も出来なかった。あそこに割り込んでいっても、三秒で死ぬ。俺の目から見れば、フラウの実力はあの第一王子相手であっても届かないほどじゃないはずだ……で?それで、フラウの師匠であるお前さんはどんな方法を使ったんだ?」


「別に?何もしていないよ。元々、フラウはあれくらい強いよ。ただ、悩み過ぎて剣が鈍るだけ」


「……ハッ。何となくわかったわ。つまり、迷う暇もなく剣を振るわせたわけか。なるほど。元々強いなら、コロヌスに勝てるという採算があったアークの考えもわかる」


「……」


 ずいぶんと、察しのいい。


「だけど、結局のところ、それは相手がアークだったからの話だろう?コロヌスの前じゃ、フラウは思うように剣を振れないだろ」


「かもねぇー」


 というか、十中八九動けない。

 だって、フラウの問題は何も解決していないのだから。


「でも、振らせるよ。僕が。フラウは心が未熟なまま、それでも、ここでコロヌスを超える。それによって、その名を世界に届かせるんだ」


 フラウの覚醒イベントはお預け……フラウはもうちょっと後で、覚醒してもらわないとねぇ?


「……お前、なんか気持ち悪いな」


「えっ?仮にも教えを乞うている立場の君が急に強火でディスって来すぎじゃない?さしもの僕とて驚くよ」


「全部、自分の手のひらで転がしていないと気が済まない。そんな歪みを俺は感じ取ったな……何でかはうまく言えねぇけどな」


「ははっ!これだけでぇ?」


 いきなり気持ち悪いという評価を下したオットーが続ける僕への評価。

 それを僕は勢いよく笑い飛ばすのだった。

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