強制覚醒
三日間の無限走り込み。
それの面倒を見るのはお姉ちゃんへと任せきりになってしまった。
僕は大抵なことは出来る器用貧乏タイプ。
それに対して、お姉ちゃんは精神干渉魔法を飛びぬけて得意としている。精神干渉系の魔法で言えば、僕よりもお姉ちゃんのほうが得意なんだよね。
この走り込みはただお姉ちゃんの魔法で限界が伸びているようにただ感じさせているだけで、体はずっと限界を超えている。それを強引に魔法で回復させながら自転車操業させているだけ。
結構無茶苦茶な訓練法で、お姉ちゃんの極まった精神干渉魔法が欲しくなる訓練法。だからこそ、この走り込みにはお姉ちゃんの手を借りるしかなかった。
けど、それを終えてからは僕の仕事だ。
「そこ、足引くな。腰引かせるな。ちゃんと前に出ろ」
「は、はいっ!?」
走り込みを終えた後、僕は自分の木刀を持ち、フラウと剣をぶつけ合う。
逐一、フラウのダメなところを指摘しながら、容赦なく剣を振るう。
「……ハァッ」
僕がフラウの首を狙って放った木刀の一刀をフラウは半身で逸らし、その手にも持った木刀を反撃の為の振るう。
フラウが狙うのは僕の喉元。
最小限の動きからの突きで、僕の喉元を貫くべく体のばねをしならせて、僕の方に伸びてきた。
「……っ」
だけど、その木刀が僕へと当たるその直前にフラウの剣が鈍る。
「遅い」
剣を振るうフラウの一瞬の悩み。
それを見逃すほど甘くない僕は振り下ろした後の木刀の柄でフラウの手の甲を叩いてその手を痺れさせて時間を作り、再度、木刀を回す。
僕の木刀は確実にフラウの横腹を叩いた。
「がふっ」
僕の木刀の一撃を受けたフラウは無様な声を漏らし、地面へと倒れ伏す。
「はぁー、もう一回やるよ」
「……うぅ、これを繰り返して、お兄様へと勝てるようになるのかしら?」
「そんなことを悩んでいる暇はないよ?後数時間はこれを続けるし、これが終わったら魔法も一から叩き込むから。フラウの苦手な魔法の分野も最低限見られるレベルにするから」
「で、でも、さっきから私はまるで師匠に木刀が届かず、ボコボコにされているだけで……」
「僕相手なんだから、当然でしょ。僕はコロヌスなんかに負けるつもりはないよ。ほら、さっさと立て」
「……わかったわ」
僕の言葉へとフラウは頷き、体をふらつかせながら何とか立ち上がる。
「そう。それでいい」
そして、剣を構えた。そんなフラウへと僕は頷き、こちらも剣を構える。
「ふぅー」
フラウは別に才能がないわけじゃない。
ただ、人よりも成長するのに時間がかかるだけだった。
地道に一歩一歩ずつ踏み進められば、フラウは問題なく強くなれる。そして、フラウはそれをしっかりと行ってきた。
フラウは既に剣の技術で言えば、コロヌスを超えるどころか、普通に世界でも屈指だ。
地道な努力、基礎だけをやり続け、そのレベルにまで成長出来るくらいにフラウは天才だ。フラウは自分のダメなところを正確に理解し、それをどうすればいいかの最善手を少しも悩まずにわかるというバグった才能持ちだからね。
「何も考えるな、剣のことだけを考えていろ」
けど、フラウの幼少期の経験。
育ってきた環境が最悪で、彼女の自己肯定感が死んでいるのだ。
せっかく見つけた最善手に対しても、これで本当に良いのかといちいち悩む。そして、何よりも最悪なのが実際に戦っている最中にも、自分の振るう剣がこれで正しいのか悩んで動きを止めてしまうのだ。
そんなんで戦えるわけもない。
悩んでばかりだから、素振りの時も意識が剣に集中されずにすべてがブレる。
フラウが弱いのはある意味で至極当然だった。
「え、えぇ……」
何も考えずに剣を振れば、フラウは間違いなく強い。
本当は、フラウが自信を持てるだけでいいんだけどね。
実際にゲームでは、フラウが自信を持てるようになるようなイベントが用意されており、それを乗り越えることで彼女は力を発揮する。
「僕を殺しに来い。それしかお前には許さない」
強くなるだけなら、わざわざそんなイベントを踏む必要もない。
こちらで強制させればいいだけだ。
僕は剣を構え、フラウにただ剣だけを振るうように告げた。それだけで、フラウには十分だから。
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