「フラウ」
地獄だ。
アークが用意した特訓の内容は地獄そのものだ。
一見すれば、ただの走り込み……それでも、強引に自分の限界を引き延ばされて無理やりに引き延ばされることがこんなにも辛いことだとは夢にも思っていなかった。
「……はぁー」
精魂疲れ果てた。
そんなフラウは一人、王城へとやってきていた。自分が一人で暮らしている小さな屋敷ではなく、王城へと。
「……すぅ、はぁー」
フラウは今、一人暮らしをしている最中ではあるが、その幼少期を過ごしたのは王宮だ。
帰省。
そう言ってもおかしくない……住んでいる位置を考えれば、いつでも来れるような王宮並びに自分の実家。
そこへとフラウは深い深呼吸をした後、正門からではなく、小さな裏門の方から王宮へと入っていく。
そのフラウの表情は何処までも暗い。
「あぁ、来た来た。愚鈍でみすぼらしい女か」
そんなフラウを出迎えていたのは一人の中年女性だった。
「今日もまた、くさい息を吐いて生きているのね」
「……はい。お義母様」
何よりも真正面から侮蔑の言葉を並べる中年女性の言葉に対して、フラウは表情を消して、ただ頷く。
「また貴方の顔を見なきゃいけないなんて嫌だわぁ~」
フラウが今日、やってきた王宮。
そこは様々な陰謀と欲望が渦巻く魔境だ。
この世界を生き抜くには多くの味方を作り、少しでも自分が安心できるような空間を作ることが必須だ。そうでもしなければ、呑み込まれてしまうから。
でも、フラウはそれがなかった。
フラウの実の母は彼女を産むと共に亡くなっている。子供にとって最大の庇護者である両親。父親の方は既に多くいる子供たちすべてには気を払っていない。そして、そんな子を守る母親も彼女は生まれながらにいない。
フラウは凄惨な王宮の中でどこまでも独りぼっちだった。
ただ、フラウは絶望的に才能がなかった。剣においても、勉学においても。
脅威にさえならなかった。放置されていた。どれだけはしたなくはしゃいでいたとしても。
フラウは徹底的に軽んじられ、この王宮の中でもたった一人で謀殺されることなく生き残れた。生き残させられた。
「貴方もそう思うでしょう?まったく。貴方なんかがいるから私も───」
「……」
ただ、フラウは誰からも愛されず、ストレス解消のために周りからサンドバッグにされるだけのお人形として生きる羽目になっていた。
「それであなた。王太子殿下の方に喧嘩を売ったそうじゃない?」
「……ッ」
「今すぐにでも王太子殿下とその母方に土下座して謝罪してきなさい……と、言いたいところだけど、あの面倒な辺境伯家のところをバッグにつけたんだって?まったくお前如きが面倒なことしてくれたわよね。フラウに対して、何の接触もしないように圧力が来ているのよ。辺境伯から」
今、フラウの前にいるのは数多いる国王の奥方の一人でしかない。
それが、国の国防の根幹に立つ辺境伯家よりも立場が上であるはずもない。この奥方は何かしたくとも、圧力より何も出来ない。というか、本来であれば会うことすらできないような立場だった。
それでもこの情勢は
そして、その行為を咎める者は王宮になく、明確な実害が出るまではアークも動かない。
「なんであんたなんかが生まれたんでしょうね?去りなさい。穢れるわ」
呼び出したのは、フラウの前にいる中年女性だ。
だが、理不尽にもただ暴言を吐いただけでその女性はフラウに帰るよう告げる。
「……はい。わかりました。お義母様」
そして、フラウはそれに頷くことしかできなかった。
これが、彼女の周りを取り巻く環境だったから。
元気はつらつでヤンチャをしていたまだ可愛い小さな女の子。その少女を殺したのは周りの大人たちだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます