自信

 打倒コロヌス。

 それこそが僕たちの小部隊の方針だ。


「じゃあ、まず、基本的なうちの班の方針について語ろうか」


 授業はもう飛んだ。

 コロヌスを倒そうと言っても、向こうは年上でちゃんと才覚も持った生徒たちのレベルからは逸脱していると言っても問題ないくらいの強者だ。

 そう簡単に勝てるわけじゃない。


「な、なんで俺も……」


「オットーだって強くなりたい、言っていたでしょ?うちの小部隊の戦いの作戦はシンプルだよ。まず、僕がコロヌス以外の三人を叩き潰す。そして、残ったコロヌスをタイマンでフラウが倒す。そんなシンプルな戦いだよ」


 今回の試験はトーナメント形式というわけじゃない。

 一つの小部隊と一つの小部隊が向かい合い、一度だけ模擬戦をする。

 それで特別試験は終わりだ。

 まだ一年生の二回目の特別試験。ほとんど授業でやっているような模擬戦の延長線上にあると言っていい。

 まだ、特別感などないシンプルなものだ。


「あぁ、それと、模擬戦することになる小部隊同士を決めるのは先生だ。実力が均等になるよう対決表を人為的に組むこととなっている。その先生に一言言っておいたから、確実にコロヌスたちの班と戦えるよ」

 

 王族と辺境伯家の息子からの要請。

 それを学園は断れないだろう。

 特に、僕とかね。第一回目の特別授業の際に自分のお世話になった自覚くらい、向こうも持っているだろう。それの恩返しもあるだろうしね。

 まぁ、後、純粋に三年生のワンツーがお姉ちゃんとコロヌスなので、小細工もなしにすんなりとマッチアップを組まれるだろう。


「本当に、私がお兄様と戦うのかしら……?」

  

 サクサクと話を進めている僕に対し、フラウがまた改めて、不安げに言葉を上げる。


「無理、無理よ。はっきりに言って……期待してくれているのは嬉しいけど……無理、無理なの。お兄様に私が勝つなんて、ありえないことなのよ」


「あのさ、期待じゃなくて核心であり、これは自信だから。僕であれば、フラウもコロヌスに勝たせられるという己への自信」


 不安がっているフラウを勇気づけるのは中々に難しい。

 幼少期からずっと落ちこぼれ扱いされてきたフラウへと自信を注入し、勇気づけるのは簡単じゃない。


「だから、従え」


「はひっ」


 故に、こうして、自分の我で押し込む方が早い。

 フラウは僕とイノセントの規格外の戦いを見ているからね。

 僕であれば、信じられるでしょ。

 他人に信じ込ませるだけの実力はあると自負しているよ。


「それじゃあ、まずはいつもやっているやつから行くよ。ストレッチと柔軟は常にマストね」


「……うぅー、もう、わかったわっ!やれる、だけのことはやってやるわよっ!強さを、手にしなきゃいけないのは紛れようもない事実だもの」


「……くっ、あれか。あれ、本当につらいんだよな」


「それで、その後は無限に走ってね」


 今、僕たちが授業を飛んでやってきているのはいつも使っている室内の訓練場ではなく、屋外の大きな校庭。


「校庭の外周を無限に走って。力尽きたとしても今、僕たちの家の方に特別な道具を取りに行っているお姉ちゃんに回復させるから、頑張り続けて」


 屋外の大きな校庭を選んだのは簡単で、この広々とした校庭の外周を走ってもらうためだ。

 普通の部活のようにね。


「えっ?」


「まずは体力。基礎がない。だから、走れ」


 ここまで自信しか見せずに話してきたけど……普通に、フラウをコロヌスに勝てるよう鍛えあげるなんて普通に無理ゲー。

 足りなすぎるところが多い。


「死ぬ気でやれ」


 死ぬ気でやらせる。

 そんな思いと共に、僕は最初にやってもらうことを話した。

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