喧嘩

 僕たちの前に立つコロヌス・シュプラー。


「期待などとうに捨てたが、それでも、あまり無様を晒すなよ?我が家の恥だ」

 

 その男はフラウへの侮蔑の感情をまるで隠そうともしていなかった。


「……ッ」


 そんなコロヌスを前に、フラウはただ顔を伏せ、その隠した表情を歪ませるだけだった。


「ティナ」


 そんな中で、お姉ちゃんは一切迷うことなく、先生のことを呼ぶ。


「……んっ?」


「さっさと組んでいいよね?試験用の部隊を。私はアークと組みたいのだけど?」


「あー、まぁ、別にいいぞ。うん。それでも大丈夫だぞ」


「だから言っているだろう。勝手に動くなと。そこの先生も先生だ。いくら貴方とはいえ、業務を放棄しては駄目だ。しかと統制を取らねば……」


「君はそもそもとして、このクラス担当ではないでしょ?元の位置に戻りなよ。ルールを破っているのは君も同じだ。呼ばれているクラスが別にあるでしょう?」


「俺は王子であり、生徒会の人間でもある。管理し、間違いを指摘する。これは当然のことだろう」


「……ちっ」


 お姉ちゃんと生徒会の人間とか、絶対にそりが合わない。

 コロヌスへの敵意をお姉ちゃんは隠そうともせず、堂々と舌打ちを打つ。


「はぁー、それが名誉ある学園の生徒の姿か?まったくもって情けない……っ」


「それはこちらのセリフでもあるわよ」


 コロヌスとお姉ちゃんが顔を突き合わせてにらみ合い、売り言葉に買い言葉を重ねていく。


「まぁ、待ってよ」


 その会話へと、僕は割り込んでいく。


「……君は、そこのリーズの弟だったか」


「あぁ、そうだよ。覚えてくださってありがとう」


 コロヌスの言葉に対し、僕は大げさな態度で一礼する。


「それでさ、学園だのどうのとか言っているけど、ここで重要視されるのはただ一つ。成績。つまりは実力だけだとは思わない?」


「私がそこの女よりも劣っていると?」


「一年生の特別試験の中で起きた大事。それを収めるために来たのはお姉ちゃんだよ?」


「……むっ」


「下を守る。それが上の持つ最大の義務じゃないかな?」


「一理あるだろうな」


「それに、これまでの試験結果でもお姉ちゃんの方が貴方よりも高い。客観的な事実として、周りはどう測るだろうね?」


「……」


「その上で負けてないと?」


「当然だ」


「なるほど。ならば、結構!」


 そう、その言葉。

 それがあれば良い……それを引き出したかった。


「じゃあ、勝負しない?僕とお姉ちゃん。それと二人で組むから。コロヌス先輩が他クラスで組んだ三人の小部隊で勝負。上に立つ者として、下を育てるのも重要でしょう?」


「ふっ、挑発のつもりか?」


「えっ?何?喧嘩売られてんのに逃げんの?」


「逃げはしない。立ち向かおう。私の強さを知らしめるいい機会となるだろうな」


「そう来なきゃね」


 素晴らしい。

 順調、順調。それを望んでいたんだよ。


「それにしても、随分と偉そうだな?先程から」


「ん?そりゃもちろん。僕がこの中で1番強いと思っているからね。そこにいる先生にだって負けるつもりはないよ」


「ほう……?一年坊が言うではないか」


「マジー?私より強いの?なら、私の代わりにこちらの仕事を……」


「先生は働け」


 先生は本当にちゃんと働いた方が良い。

 堕落しすぎだ。


「まっ、そんな舐めほざいたことを言っている


「あぁ、もちろん。叩き伏せよう」


 ふふふ、良い感じ、良い感じ。


「あぁ、いいだろう……お騒がせしたな。このクラスの者たち。すまない。私はここで本来のクラスに戻ろう。それでは」


 話を終えたコロヌスはようやく、ここを去って、本来行くべきクラスの方へと戻っていく。


「……ふふ」


 取れる選択肢は多ければ多いほどいい。例え、その選択がどんな道に続いているとしても、ある分には困らない。

 前もって作っていた保険。それを活かすための前準備にはなるかな?うん。

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