復讐
フラウとオットーの二人の稽古をつけ終わり、家へと帰る道の途中で。
「……復讐は駄目なの?」
いきなりポツリとお姉ちゃんが言葉を漏らす。
「いきなり何?」
そんなお姉ちゃんの言葉に対して、僕は疑問の声を向ける。
「前から思っていたけど、何でアークはそんなにも復讐に対して後ろ向きなの……?同じ、お母さんを殺された仲なのに」
「んー、敵が何なのかは知っているよね。相手が何であるか」
「えぇ、敵はこの国。お母さんを殺したのはこの国そのもの……ッ、私はまだ、許せる気なんてないわ」
「僕にとって、復讐なんて些末でしかないさ。私怨でわざわざ国を敵に回そうとは思えないかな」
「……そう」
「それと、お姉ちゃんのことはお母さんから任されているからね」
「えっ?」
「お姉ちゃんは子供っぽいから、しっかりしている貴方に任せるわって。自分が死んだ後のことも含めてね」
「えっ!?うそでしょ……ッ!?私の方がお姉ちゃんなのに。何でそんな……んっ?自分が死んだ後も……?」
「お母さんも、自分が暗殺される可能性が高いことに気づいていたんだろうね。その言葉を受けてようやく僕が気づき、事態を何とかしようと動いた時にはもう遅かったよ」
本当はもっと前から動いていた。
それでも、足りなかった……たとえ、赤ん坊のころから動いていたとしても、赤ん坊で出来ることなんて限られていた。
「そう、だったの」
「それにしても、お姉ちゃんが復讐の話を出すの珍しくない?」
これまで、基本的に僕もお姉ちゃんも暗黙の了解的に復讐の話はあえて出してこなかった。
何とも言えない雰囲気となることはわかっていたから。
だからこそ、ここら辺の話は互いに抱えながらも、話してはいなかった。
「……アークが、生徒会と接触したからよ。アークは、私の味方よね?」
「もちろん。それは間違いなく」
「なら、良いよ……アークも、お母さんを殺した国の味方になったら、私はもう、耐えられないから」
「それはないから安心して」
父は、ともかくとして、僕だってちょっとばかり程度の人の子だ。
愛してくれたお母さんのことも好きだった……国に対して、何も思わないわけじゃないし、当然、お姉ちゃんのことだって弟として愛している。
お姉ちゃんを見捨てて国に寄り添い、自分の死亡フラグを折るような真似をするつもりはなかった。
「……なら、良いわ。ひとまずね」
「二人で過ごす。それで、良いでしょ?それでさ。今日の夜ご飯はどうする?」
お姉ちゃんが振ってきた復讐の話。
それをサクッとすり替えて、僕はお姉ちゃんと帰路を進むのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます