お姉ちゃんも

 生徒会を後にした後、僕はそのままお姉ちゃんを連れて元いた訓練場へと戻ってきていた。


「やっているー?」


 訓練場へと入ると共に、僕はそこの中にいるフラウとオットーに向かって声をかける。

 訓練場の中にいたフラウとオットーの二人はちょうど、素振りを行っているような最中だった。

 その二人は僕の言葉を受けてその素振りの手を止め、こちらの方に視線を向けてくる。


「えぇ、当然!」


「うおっ……!?」


 お姉ちゃんを連れてきた僕に対して、フラウは何も反応を見せず、その代わりにオットーの方はありえないとばかりの目を見開いていた。


「氷の姫……っ!?」


 そして、その差はお姉ちゃんのことを知っているかどうか、ということで間違っていないだろう。


「な、何で氷の姫がぁ?」


「何?オットー。その隣にいる女の人のことを知っているの?」


「当たり前だろ。知らないわけないじゃないか。昨年度の学園トーナメントで生徒会長を打ち破った才女だぞ!?」


「いや、そこまで知っているのに、何で驚いているんだよ。僕とお姉ちゃんは同じラインハルト辺境伯家だぞ。家名で気づけ。弟が姉といてそんなに不思議か?」


 フラウに対して、意気揚々とお姉ちゃんについて語っているオットーに対して、僕は呆れながら言葉を返す。


「ハッ!?」


「おい。マジで知らなかったん?」

 

「いや……その、休みまくってて名前も把握できてなかったというか……その上で調子に乗っていたから、カチンときたというか、何というか、なぁ?氷の姫の弟だって、知ったら、喧嘩を売っていなかった」


「なら、せめて、僕のところに来るときに家名くらい確認してから来なよ」


「……喧嘩っ早いお前と常に感情を見せない氷の姫がどうしても結び付けなくて」


「喧嘩っ早さはオットーに言われたくないよ?」


「あ、あのぉ……?」


 なんて会話をしていた中で、フラウが何とも言えない、困惑の声を口にする。


「あっ」


 いつの間にか、僕の隣にいたはずのお姉ちゃんがフラウの前に立っており、無言で自分の前に立ちながら見下ろしてくるそのお姉ちゃんを前にフラウが困惑の声を漏らした格好だった。

 お姉ちゃんが何をするか。


「ねぇ、オットー。私がこのフラウ、って言う王女に稽古をつけていいかしら?強く、なりたいのでしょう?なら、最短の方法を教えてあげる。優しいオットーじゃなくて」


 ちょっとだけ身構えた僕に対して、お姉ちゃんが口にするのは自分が稽古をつけたい。

 そんな話だった。


「えっ……?」


 そんなお姉ちゃんの言葉を受け、まずはフラウが困惑の声を更に漏らした。


 ■■■■■


 フラウのことを鍛え始めたお姉ちゃん。


「……え、えぐい。これが氷の姫の……ッ」


 その訓練の結果、過程。

 それはオットーが慄くような、畏怖の感情から色々なものを察することが出来る。


「はぁ……はぁ、ぐっ」


 少しでもダメなところがあれば叩く。

 叩いて、叩いて、叩く。

 痛みによって覚えろという苛烈な訓練法により、お姉ちゃんはフラウのことを鍛え上げていた。


「もうダメね」


 フラウは粘った。

 一時間も頑張った。

 それでも、フラウはその一時間耐えた果てに気絶してしまった。


「そう言えば」


 そんなフラウの現実を作り出したお姉ちゃんは僕とオットーの方に視線を向けてくる。


「貴方、アークに喧嘩を売ったんだってね?」


 そして、そのお姉ちゃんはオットーに視線を送って口を開く。


「い、いや、……その、ほらぁっ!喧嘩することで芽生える友情ってのもあるからっ!?なっ、そうだよな!?アーク!」


「……んっ、まぁ、そうだね」


 貸し一だね、これら。


「そう……アークは、私のだから」


「はひっ」


 お姉ちゃんの牽制の言葉。

 それを受け、オットーは声を震わせながら頷くのだった。

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