呼び出し
「こんなにも差があるとは思っていなかったよ」
フラウは別に強くない。
でも、それはあくまで僕がから見て、というもの。
これでも、僕は弱くない。
前世から積み上げてきた格闘術。今世において、赤ちゃんの頃から積み上げてきた、前世にはなかった違和感への、魔力への造詣。
暗躍の中での戦い。
お姉ちゃんとの戦い。
イノセントとの戦い。
前世も戦ってばっかりだった気がするが、それ以上に今世の僕は戦っている。
そんな経験値の多い僕が強いのはある程度必然で、その僕よりもフラウが弱いのは仕方ない。
「でも、……そっかぁー」
ただ、フラウがオットーとの模擬戦でフルボッコにされるのは想定外だった。
大振りで、甘さの目立つフラウの木刀による一振り……それに対し、オットーは受け止めることもしなかった。軽く剣先を回し、ただそれだけで握りの甘かったフラウの木刀をその手のひらから弾き飛ばす。
そして、最後にその流れで首元に木刀を突きつける。
これで決着だった。
「圧勝だったね」
まっ、でも、フラウはゲームにおいて覚醒イベントを踏むまでは弱かったか。
「……ごめんなさい。師匠。何も、出来なかったわ」
「んにゃ、これに関しては、オットーが強かったんだよ。そんな落ち込む必要はないよ」
気まぐれでフラウを鍛えるつもりになった僕……いや、ぶっちゃけると、ボッチで学校生活を送るのが普通にちょっと嫌だったので、友達関係を継続するための師匠と弟子という関係性。
学校で、一緒に過ごせる友達が欲しかっただけ……というなんとも情けない理由だけど、それでも僕はフラウの師匠になったのだ。
ちゃんと強くしてあげないとね……それに、フラウが強くなるのは僕の頭の中にある幾つかのプランの中でちょうどいい。
「これから強くなっていけばいいんだよ。つか、冷静に考えてみれば、まだ何もやっていないじゃん?僕が何もしていない状態でフラウが強かったら、僕の立場はないよ」
「……おかしいな?俺は一応、弟子になるのを快諾されたはずでは?明らかな差を感じるぞ」
「いや、まっさらな状態から育てあげるのと、ある程度育っているオットーとでは、楽しさに差があるでしょ」
これでも僕は前世でしっかりと武術を修めた者。
せっかく教えるなら、その流派を広めたい。
フラウを僕の流派に染める気満々だった。
……でも、オットーはその実力がある程度確立されているからね。今更流派を変えるのはないかな。
「適当に見ていれば?あと、たまに僕が模擬戦するよ。強者との戦い。それがオットーには足りないと思うよ?綺麗ではあるけど、強さは感じられない」
「んぐっ……ふー、不服だな。受けてきた教育であれば、俺よりもそちらの王女様の方が上だと思うのだが??」
「関係ないね。その王家の教育は明らかにフラウへとあっていない。そんな上で何かを積み上げても、詰みあがるわけない。努力なんて効率よくやらなきゃ損だよ?」
「……あれ?もしかして、これ、私のこれまでの努力をすべて否定されている?」
「僕が強くさせるってば!師匠なんだし。さっ、それじゃあ、本格的に……ァア?」
フラウを鍛えよう。
そんな風に、意気揚々と動き出そうとした僕は、自分の言葉を途中で止めて新しくこの訓練場に入ってきた人物へと視線を向ける。
視線を向けた理由。
それは、訓練場へと入ってきたその人物の手に握られていた一つの書類に僕の名前が書かれていたからだ。
「アーク様ですか?」
「……そうだけど?」
「生徒会長がお呼びです。同行願えますか?」
「……何故?」
急に入ってきた僕への要件。
それを前に僕は首を傾げた。
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