訓練
広々とした学園。
そこにある室内の訓練場へと僕はフラウと共にやってきていた。
「さっ、まずはストレッチからやっていこうか」
「ストレッチ……?」
「大事だよー、ストレッチは。ストレッチの次は柔軟をやるから。そのつもりでいてね」
「……柔軟?」
基本的にこの世界の人間はストレッチとか、柔軟とか、そこらへんをまるで知らない。
故に、特別な才能を持った人間以外は体が全くと言っていいほどに柔らかくなく、動きの幅がかなり小さい。
「こんなんただの基礎だよ。疑いを持たず、さっさとやっていこうか。師匠の教えは絶対だよ」
「は、はいっ」
「うん。いい返事だ」
イマイチ意味がわかっていなさそうなフラウを僕は強制的に動かし、ストレッチを行っていく。
怪我しないよう、ちゃんと体を伸ばすのは大切だ。
まぁ、怪我したとしても回復魔法で治せばいいって言われたら、それはそうで、実際にこの世界の人間はそうしているんだけど。
「いたぁぁぁぁああああああああああああ!?」
そして、柔軟の時はフラウの悲鳴が響き渡った。
「はぁーい、頑張ろうねぇ?」
そんな悲鳴を僕は無視し、強引にフラウを伸ばしていく。
「はぁ……ひぃ……ふぅ……」
ひとしきり、僕が満足するまでの柔軟が終わった頃にはもう、フラウは死にかけの状態になっていた。
「こ、これには何の意味がぁ……?」
息を切らし、喉を枯らし、それはもうすっごい可哀想な、疲れ果てた様子のフラウが僕に向かって疑問の声を向けてくる。
「体が柔らかなくなるんだよ。足が高くあげられれば蹴りとかも楽よ?」
それに対し、僕は迷いなく足を上げ、自分の隣に立っている柱を蹴りつける。
僕の頭上よりも高いところに届いた足による蹴りは確かに、柱を大きく損傷させ、あわや柱が折れるというところにまで行く。
「あっぶなっ!?思ったよりもやわかった!?」
いや、良かった……柱が折れるところまで行かなくて。
マジで危なかったじゃん。
「……すごいわ」
「ま、まぁ……こんな風なことも出来るし、純粋に体が柔らかければ、出来る運動の幅も広がるからね。これは毎日やった方がいいし、やるよ」
「……うぐっ」
「まっ、やっていけばいずれなれるさ」
「……うぅ。それを信じることにするわ」
「あぁ、そうしてくれ。さて、次はーっと」
基礎的なことはこれで終わった。
次にやることとしては……うーん、やっぱりこれも基礎の素振りからやった方がいいかなぁ?
「……ァ?」
なんて風にこれからのフラウの訓練方針を考えていた中で、僕はこの訓練場に入ってそのまま自分の方へと近づいてきた一人の男を見て、視線を後ろの方に向けて威圧するかのような声を上げる。
「……背中に目でもついているのか?」
「お前と違って僕は盲目じゃないからね」
僕が視線を向けた先。
そこにいるのは特別試験前に僕の方へと絡んできたオットーだった。
「ハンっ、魔法による感知を目で見たとは言わねぇよ」
「肉体に縛られているなんて、実に平凡でつまらなく、何とも弱々しいことじゃない?」
「……お前視点から見りゃそうなのかもな」
「あり?」
売り言葉に買い言葉。
今後とも口論を続けていくつもりだった僕は、途中から翻って急に大人しくなったオットーを前に首を傾げる。
「あれだけのことを見せられて、強さを認められないほどに俺は盲目じゃねぇ」
「んっ……?」
「あの最初の一撃……しかも、その後も余裕綽綽と言った態度で動き出したんだって?それに、俺は……お前があの化け物と戦っていたところも、あの森全体を凍りづかせた先輩と仲良くしていたところも、見ていたからな。俺が間違っていた。すまない」
謝罪とか聞いてない。
「えぇー!」
「おい、待て。なんでそこに嫌そうなんだよ!」
いや、喧嘩しよ?もっと喧嘩しよ?
楽しく罵りあおうよ……残念。
「それで、お願いだ」
「えー?どの面下げて?別にいいけど」
「えっ!?良いのか!?」
「うん、いいよ。よし、それじゃあ、まずは実力を確認するため、オットーとフラウで対戦してみようかっ!」
模擬戦、模擬戦と行こう!
「二人ともこの武器を使ってね!」
僕は二人に魔法で作った木刀を渡す。
こいつには特殊な魔法がかけられていて、その木刀で負った傷は僕の合図ですぐに治る。
これを使えば、安心して模擬戦を行える。
「んじゃ!開始!」
僕は二人の話など聞かず、勝手に模擬戦を開始するようにせっついていく。
さぁ、行けっ!我が弟子よ!
オットーに赤っ恥をかかせてやれ!
「じゃ、じゃあ……」
「負けませんっ!」
師匠である僕の命令に従い、木刀を持った向かい合い始める二人。
そして───。
「俺の勝ちだな」
「くっ……」
「わぁー、つっおい」
一分足らずで勝負あり。
あっさりとフラウに勝利してみせたオットーを見て、僕は早々にオットーの実力を認めざる得なくなるのだった。
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