弟子
家に帰れないことが確定したその日の夜。
「……何故、私の家で師匠が寝ていたの?」
僕は一人暮らししているフラウの寝室へと侵入し、そこに置かれていたソファで勝手に眠っていた。
「いや、師匠らしいことを見せないと、って思ってさ」
そんな行為を咎めてくるフラウに対して、僕は肩をすくめながら、一切悪いことはしていないですよ?という雰囲気を醸し出しながら答える。
「……師匠は弟子の寝床に忍び込むものなのかしら?」
「そんなわけないでしょ。プライバシーも守らない師匠なんて駄目駄目だよ。そんな師匠からは逃げた方がいい。寝ている子の寝床に忍び込んでくるとか、普通にクズでしょ」
女の子がそんな無警戒なことをするべきじゃない。世の中の雄はみんな醜悪な獣ばかりだ。
ちゃんと自衛しなきゃ。寝床に忍び込まれたらちゃんと強い言葉で否定しに行くべきだよ。
それが例え、その相手が自分よりも目上の人間だったとしても。
「……目の前にいる師匠がそうなのだけど、私はどうするべきかしら?」
「違うさ。僕は起きていると思っての行為だったのだよ」
僕はちょっと違うけどね?
僕は何も悪いことはしていない。
「なんで起きていると思ったのよ……貴方が私の家に来たの、もう夜も更けた時間帯なんでしょ?それで寝ていると思ったのなら、ちょっと師匠が怖いわ」
「えー?暗部が昨夜に動いていたのに?」
そう。だから、話はすり替えさせてもらうね?
「……えっ?」
「暗部が動いているのに、それも気づけない……それに師匠の僕としては嘆かわしい!と、言わざるを得ないよ。いつから、君はそんな鈍い子になってしまったんだい?」
「……ま、待って?暗部が動いた……?いや、そこは別に驚きじゃないわ。でも、何で、暗部の動きを師匠が知っているのかしら?」
「僕にも色々あるんだよ。肩書を考えてみ?」
母親を暗部に暗殺された辺境伯家の嫡男。
これだけでひと悶着起きそうな雰囲気はぷんぷんとしているでしょ。
「辺境伯家の嫡男であっても、暗部の動きを知っているのはおかしいわよ」
「僕、最強だから」
「な、なるほどっ!」
「……」
納得されても困るかも。
多分、僕が普通にティナとかと戦えば、負けそう……いい勝負は出来そうだけど、結局的に押し負けそう。
「まぁ、そんなことはどうでもいいんだよ。問題なのは僕の弟子を名乗っていながら弱いフラウのことだよ。僕の弟子でありながら雑魚とか、許されなくない?」
「……うぅ」
「というわけで、ちゃんとフラウのことも師匠らしく、面倒を見てあげようと思って。だからこうして、僕は今、君と一緒に学校へと向かっているんでしょ?」
暗部につけられている可能性も考え、僕のオリジナル魔法によってその所在を周りが掴めないようにしている家へと帰れなかったので、代わりにフラウの家へと行った昨日。
その次の日である今日はフラウと共に、朝早くから学校へと向かって歩いていた。
「えぇ、そうね」
今、学園は休校中だ。
でも、学園が閉鎖されているわけではない。
あくまで、学園側が事態の精査と今後の対策をたてるために多くの教師陣が今、まともに授業を行えない体制にあるから休校としているだけ。
設備が使えなくなったわけでもない。
そのため、学校の設備目的で休校中でありながらも、学校へと通っているような人はかなり多かった。
巨大な図書館だったり、豊富な訓練場だったり、出来ることはかなり多いからね。
「私の為にありがとう。感謝するわ」
「そうでしょ?一応、これでも僕はちゃんと強いし、感覚で戦っているというより、理論で戦っているからね。そんな無様なことはしないと思うよ」
まぁ、僕の理論で動ける人間がどれだけいるのかはわからないけど……それでも、話のレベルをガクッと下げ、話を進めていくことは簡単。問題なく出来る。
前世では僕よりも後に道場へと入ってきた子に何かを教えたり、なんてこともしていたからね。
これくらいなら朝飯前だよ。
「フラウはちゃんと自分の実力を上げるのに注力してね?」
「えぇ!師匠からの教えを乞うわけだからね。無様な真似は晒さないわ」
頑張って、という僕の言葉を受け、フラウは勝手に力強く頷いてくれるのだった。
よし。これから何かあった時、フラウの家は緊急避難先にしよ。
うちの家は何かあった時の為のことを考えて周りからその存在をバレないようにしているからね。
僕とお姉ちゃんはいつも、家に帰る時は複雑な手順と様々な魔法を織り交ぜて何があっても、二人で暮らしている家はバレないようにしている。
まぁ、普段使いの時はそんなんクソ面倒なだけだからね!
ちょっとの休憩の時とかでフラウの家を活用させてもらうことにしよう……。
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