イノセント

 アークがイノセント───種族名、イノセント。個体名毒牙のことを考えていた頃。


「人というのも素晴らしい。まさか、我の技法を真似し、更に一段階と強くなる者がいるとは思わなんだ」


 アークと激闘を繰り広げたイノセントの毒牙も彼のことを思っていた。


「何嬉しそうにしているのよ……私たちの目的を考えると、煩わしいだけでしょ」


 そんな毒牙の元に、ティナと戦っていたイノセントの一人、族牙がやってくる。


「我のあり様はただ一つ。強者を重んじる。それだけよ」


「はぁー、私たちイノセントの悲願を忘れないで欲しいわね」


 唯我独尊。

 己が思うままに。

 それを愚直に実行し続ける毒牙に対して、族牙はため息を吐く。


「貴方だって、定住地もなく彷徨い続けるなんて楽しくはないでしょう?」


「……ふむ」


「私たちは自分たちの星をに手にする。不定形の異空間に閉じこもるばかりの生活はもうおさらばよ」


 イノセント。

 この広い宇宙を放浪する種族。

 イレギュラーとしか言いようのない、ゲームとはまったくもって関係ない種族がアークたちの星へと手を伸ばす───それがこの世界に与える影響は何たるか、この時はまだ、誰にも予測できなかった。


 ……。


 …………。


 そして。


「……何かが、来ていたな。そろそろ」


 それへと呼応するように、また別のところでも山が動き出す。

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