天才

「あー、いてぇっ」


 内装。

 己の体内にある魔力を糸のように練り上げ、その肉体のまま編み込む。

 そんな技術を用い、何とかイノセントの攻撃を喰らっても、一撃で死なぬレベルにまでは出来ることが出来た。

 これで、何とかイノセントと戦いを演じるくらいであれば出来るでしょ。


『キョウガクダ。マサカ、ヒトノミデアリナガラ、ワレノツカウブソウナイガイヲツカウトハ……アマリニモソウテイガイダ。ジツニ、ジツニスバラシイノウリョクダ』


「まぁ、待て待て。聞こえねぇ、って言っているだろ」


 そんな僕を前にして一度は退いて距離を取って話し始めたイノセントの言葉を途中で遮る。


『それではもう一度。驚愕だ。まさか、ヒトの身でありながら、我の使う武装内骸を使うとは……あまりにも想定外だ。実に、実に素晴らしい能力だ』


「……でしょう?」


 これ、武装内骸っていうんだ。

 内装っていうよりもカッコいいな。内装じゃ、家の中かな?って思うし。


『これを見様見真似でうまく行うとは、げに恐ろき才覚よ。それに、我のと違うな。あまりにも』


「そうなの?」


『然り。そもそもとして、我のこれは種族的な特性も活用している。それの部分を汝は我も出来ぬ、魔法使い的な魔力操作も織り交ぜることで再現している』


「へぇー、ならそうなのか」


『これをほんの僅かな時間で可能とするとは、まさに天才的だ。まさか、魔法使いとしての魔力の練り上げ方も極めているとはな』


「僕ほどにもなればね」

 

 まぁ、魔法分野に傾倒していたからこそ、さっきまでの僕が無様を晒していたところもあるけど。

 異世界に転生してからの僕は前世で培った分で問題ないだろうと勝手に判断し、魔法分野にばかり注力してした。

 そのつけを払わされた感じかな?今回は。

 これからは、ちゃんと徒手空拳の方もこの世界仕様にしていかないとね。魔力の活用の仕方のバリエーション。応用の可能性は、目の前にいるイノセントから学べた。


『……ところで、話は変わるか、努力すれば、凡人であっても天才に勝てる。なんていうのたまいごとを知っているか?』


「……何だよ。急に」


『だが、これは断じてあり得ない』


「急に何さ?凡人、天才とか、興味ないのだが」


『天才とて、努力する。否、天才とは何たるか。簡潔に言うのであれば、最も努力を効率よく努力する者。それこそが天才である。その生まれ持った天性の勘で、常人離れした圧倒的な思考能力で、何よりも上手く、何よりも効率的に努力を行う。だからこそ、天才なのだ。凡人に出来ることなど、天才が飽きて努力を辞めることを祈ることしかできない』


「何?そのお前の天才論。つまらないのだが……努力云々抜きに、確固たる天才というのは存在するだろ。肉体的なものなどね」


 飯が食えるかどうか、病気に強いかどうか。

 そこらへんは努力云々関係ないだろう。

 

『……むっ。人はそうなのか?我らの種はすべて同一個体であるのだが』


「お前の種族のことなんて、僕が知るわけないでしょ」


 あまりにも急な天才論にもほどがあるでしょう。

 前後の文脈なさすぎでしょ。


「そんなことよりも、さっさと戦おうよ」


 これまで、長々とイノセントが会話してくれていたおかげで準備できた回復魔法。

 それを発動させ、完治した僕は己の両手を合わせ、笑みを浮かべる。

 まだ僕の武装内骸は全然未熟だ。

 一番最初の攻撃を防げたのは武装内骸だけじゃなく、結界の方も一緒に発動させたからというのもある。

 早くこれを完全に自分の物としたくてしたくて……うずうずしているのだ。


『いや、すまない。お主の天才的な能力を見ればどうしてもな……うむ。では、手合わせと行こうか』


「あぁ……いこういこういこう。ぜひ……僕を高みにつれて行ってくれ」


 心躍る。

 戦いを、今。

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